第2話 蟻

赤い服の女におばあさんがことさらに蟻を弁護するような物語を子供時代によくしてくれた。

「蟻が砂糖の山をつけた時の高揚感を考えてみなさい。角砂糖の前で力尽きた蟻のことを考えてみなさい。飴あめを人間が食べていて落としてしばらくしたら飴に群がる蟻の大群の考えの簡潔さを考えてみなさい。」

働き蟻ありは日本人のたとえ。

この三つの詩の共通点は、流転する蟻は常に砂糖に喜ぶこと。

おばあさんが赤い服の女に話してくれた蟻の話はおばあさんの親戚からよく聞いていた話なのだそうだ。

どういう話かというと、明治時代の旧家の、ある病弱な女の子がお医者さんに「文章でも書いてみたらどうだ?」と言われ書き始めたそうだ。

虫をテーマにして書いていた。

最初は良かったが、女の子は段々具合が悪くなっていった。

その女の子がお医者さんに明かした話。

例えば蟻の行列を人間が間違って踏んずけてしまったと文章に書いた次の日新聞を見ていたら、どこかで脱線事故がおこって何人か死亡したとでていて顔が青くなった、という話。

「なにかの偶然ではないか?」とお医者さんは言っていた。

その後女の子が部屋の掃除が出来ていないとお母さんに怒られて、ついつい文章に一番大きくて美しい蝶を人間がばんっとつぶしたと書くと、その次の日新聞を見ていたらどこかの国の女王様が亡くなったと書いてあり、女の子は完全に具合が悪くなってしまった。

それでお医者さんは女の子から文章を譲ゆずり受け文章が書かれた原稿用紙を持っていた。

それをお医者さんの奥さんが見つけてお医者さんの奥さん同士で集まっているサークルで、その文章の続きを作り始めた。

それが明治から大正、昭和にかけて実際の歴史に影響を与えていた。

前におばあさんがことさらに蟻を弁護する話をした、あの蟻の話はその女の子が元気な時に作った文明論。

蟻が砂糖の山をみつけた高揚感。

角砂糖の前で力尽きた蟻。

飴を人間が食べていて落としてしばらくしたら飴に群がる蟻の大群の行動の簡潔さ。

つまり単純に生きるために大勢の蟻が仕事をするということ。

あまりの蟻の多さに気持ち悪くなるが。

その意味するところはまず、固めていない砂糖が加工され角砂糖、飴と進化している。

それが文明。

蟻は宝を見、喜び、無情も知り、それでも生きるために仕事をし続ける。

しっかりした話なのでおばあさんが赤い服の女に話していたのでしょう。

そして蟻の指輪を作ってくれたのはその話をよくよく聞いていた赤い服の女のお母さんであった。

その女の子いわく、ゆっくりと呼吸するように書き込む。

その中に愛情も憎しみもあり、それを浄化するように読んでもらい涙を流してもらいたい。

慌てふためくことなく、それでも緊張感を持って勇者のように書き込んだ時が過去にあった。

赤い服の女は私もそうありたいと思うのだった。

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