第7章『信頼の槌音』

「ボルガンさん!あんたの槌が必要なんだ!」

瓦礫が降り注ぐ中、カイの叫びがボルガンの耳に突き刺さった。その声は、震えていた。だが、そこには確かな意志の力が宿っていた。

(ワシの、槌が……?)

絶望に沈んでいたボルガンの脳裏に、父の最後の言葉が蘇る。『いいか、ボルガン。槌はな、ただ武器を打つだけのもんじゃねぇ。仲間を、未来を、切り拓くためのもんだ』


「……親父」

ボルガンは、絞り出すように呟いた。

「ワシはもう、逃げねぇ……!親父のように、最後まで戦う!」

彼は、震える脚でゆっくりと立ち上がると、傍らに落ちていた巨大な戦槌(ウォーハンマー)を拾い上げた。ずしり、と腕に伝わる馴染んだ重み。それが、彼の魂に再び火を灯した。

「おい、小僧!ワシにどうしろってんだ!」

その声に、カイは振り返って叫んだ。

「信じてくれるんですね!」

「勘違いするな!この街を、ワシの仕事場を壊されて、黙ってられるかってんだ!」


「ゴーレムの背中、中央にある魔石が弱点だ!そこを叩けば、止まるはず!」

カイが叫ぶ。

「背中だと!?どうやって回り込む!」

「僕が隙を作る!ルーナ、援護を!」

「言われなくても!」

ルーナが風の刃を連続で放ち、ゴーレムの注意を引く。その巨体が、ルーナの方へと向き直った。


「ボルガンさん、今だ!右から回り込んで!」

「おうよっ!」

ボルガンが、ドワーフとは思えぬ俊敏さで走り出す。だが、ゴーレムはすぐに気づき、巨大な腕を薙ぎ払った。

「くそっ!」

「危ないですわ!」

ルーナが風の障壁を張り、かろうじて直撃を防ぐ。だが、その衝撃で二人は大きく吹き飛ばされた。


「だめだ……。速すぎる……」

カイは歯噛みする。弱点はわかっても、そこへたどり着けない。ゴーレムの単眼が、再びカイたちを捉えた。その瞳の奥で、赤い光が不気味に増していく。

「まずいわ、カイ!何かとてつもないのが来ますわ!」

「くっ……!」

絶体絶命。カイが覚悟を決めた、その時だった。


【真理の瞳】が、未来の情報を捉えた。熱線を放射する寸前、エネルギー充填のために、ほんの一瞬だけ、ゴーレムの動きが完全に停止する。

(コンマ一秒……。でも、そこしかない!)

「ルーナ!僕の合図で、ゴーレムの足元に氷の魔法を!」

「氷!?わかりましたわ!」

「ボルガンさん!タイミングを合わせるんだ!」

カイは、その一瞬に全てを賭けた。


赤い光が極限まで高まる。

「――今だっ!」

カイの絶叫と同時に、ルーナが地面に手を叩きつけた。

「凍てつけ!『アイス・プリズン』!」

ゴーレムの足元が瞬時に凍りつき、その巨体がわずかにバランスを崩す。熱線の照準が、ほんの少しだけ上にずれた。


ゴオオオッ、と街の天井を焼く熱線。その隙を、ボルガンは見逃さなかった。

「おおおおおおっ!」

凍った地面を蹴り、跳躍する。父の教え、鍛冶師としての誇り、その全てを乗せた渾身の一撃。彼の戦槌が、閃光を放ちながら、背中の魔石へと吸い込まれていった。


パリン、と軽い音が響いた。次の瞬間、ゴーレムの全身を駆け巡っていた赤い光が消え、その巨体は動きを止める。そして、ガラガラと音を立てながら、ただの石の塊となって崩れ落ちていった。

「やった……のか……?」

静まり返った街で、誰もがその光景に立ち尽くしていた。


ボルガンは、カイの前に立つと、ぶっきらぼうに頭をかいた。

「……小僧。てめぇ、一体何者だ?」

「僕は、カイだ。ただの人間だよ」

「ただの人間が、あんな化け物を止められるか。てめぇのその眼と、信念。気に入ったぜ」

彼は、差し出されたカイの手を、その分厚い手で力強く握った。

「ワシも、連れていけ。この世界の真実とやらを、この眼で確かめてやる」

こうして、一行に頼れる仲間が加わった。

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