第6章『古の炉の咆哮』
ボルガンに鍛冶場を追い出され、カイとルーナは途方に暮れていた。活気ある街の喧騒も、今の二人には虚しく響くだけだ。
「これから、どうしましょうか……」
ルーナが不安げに呟いた、その時だった。ゴゴゴゴゴ……!という、地鳴りのような轟音が、街全体を揺るがした。リズミカルに響いていた槌音が、ぴたりと止む。
「何ですの、この揺れは……」
「地震……?いや、違う……!街の、一番下からだ!」
次の瞬間、街の中央広場から、巨大な火柱が噴き上がった。
「うわあああっ!」
「炉だ!最下層の『古の炉』が暴走したんだ!」
ドワーフたちの絶叫が響き渡る。そして、炎と黒煙の中から、その巨体が姿を現した。黒曜石のような硬い装甲に、赤い光を宿した単眼。封印されていたはずの、古代の防衛ゴーレムだった。
「なぜだ!炉は完全に制御されてたはずだろうが!」
「くそっ、攻撃が効かねぇ!」
ドワーフの戦士たちが勇敢に戦斧を振るうが、ゴーレムの装甲には傷一つ付かない。ゴーレムは巨大な腕を振り回し、建物を紙屑のように破壊していく。街は一瞬にして、炎とパニックに包まれた。
「カイ、危ないですわ!風の障壁(ウィンド・バリア)!」
ルーナが咄嗟に放った魔法が、飛来する瓦礫を防ぐ。
その地獄絵図の中心で、ただ一人、立ち尽くしているドワーフがいた。ボルガンだった。彼は、愛用の槌を取り落とし、わなわなと震えている。
「あ……あ……」
その目は、目の前のゴーレムではなく、もっと遠い過去の悪夢を見ているようだった。
「ボルガン……?」
カイは、彼の異様な様子に気づいた。
(親父……!)
ボルガンの脳裏に、数十年前の光景が蘇っていた。まだ彼が幼かった頃に起きた、炉の暴走事故。暴走する魔力を止めようとした父は、彼の目の前で、光の中に消えた。
「まただ……。また、ワシは……」
何もできなかった、あの日の無力感。それが、鉄の枷となってボルガンの体を縛り付けていた。
「親父と同じだ……ワシには、何もできん……!」
絶望を呟き、その場に膝をつくボルガン。その姿を見て、カイの心に何かが灯った。
(この人を、このままにはしておけない……!)
それは、ただの同情ではなかった。絶望を知る者としての、強い共感だった。
「ルーナ!ボルガンを頼む!」
「カイ!?」
カイは瓦礫の陰から飛び出し、巨大なゴーレムへと向き直った。
「僕が、あれを止める!」
「無茶ですわ、カイ!あなた一人で何ができると……!」
ルーナの悲鳴を背に、カイは【真理の瞳】を起動させた。視界から色が抜け、世界が情報へと変わる。ゴーレムの巨体は、無数の術式とエネルギーラインの集合体として映し出された。
(これは……ただの暴走じゃない。誰かが、意図的に……!)
動力源に絡みつく、微かな黄金の糸。神の使徒が仕掛けた、卑劣な罠だった。
カイは情報の奔流の中から、必死に活路を探す。完璧に見えるゴーレTUEEEムの装甲。だが、一か所だけ、エネルギーの流れが不自然に歪んでいる場所があった。
「あそこだ……!」
背中の中央付近に埋め込まれた、小さな制御用の魔石。そこが、外部から魔力を注入された痕跡。そして、今や唯一の弱点となっていた。
「見つけたぞ……!」
「ルーナ!ボルガンさんを安全な場所へ!」
カイは叫ぶ。まだ、勝機はある。
「でも、どうやってあそこを……!私の魔法でも!」
「僕一人じゃ無理だ。でも、この街に一人だけ、あれを壊せる人がいる!」
カイは、絶望に打ちひしがれる頑固な鍛冶師の背中に向かって、力の限り叫んだ。彼の魂に届くことを信じて。
「ボルガンさん!聞こえるか!」
瓦礫が降り注ぐ中、カイの声が響き渡る。
「あんたの槌が必要なんだ!あんたじゃなきゃ、だめなんだ!」
その声は、絶望の淵に沈むボルガンに届くのか。カイは、ただまっすぐにゴーレムの弱点を見据え続けた。この街の運命は、一人のドワーフの心にかかっていた。
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