誰かが呼ぶまで。
魔不可
代償
僕の好きな人に、魔法がかけられた。
美しい容姿を持ったが、代償として、声を失った。
この魔法を解く方法は、人魚姫みたいに愛する人のキスを受ける…というわけではなく、「自分の名前を呼んでもらう」ことだ。
それなら、家族や友達に呼んでもらえばいいじゃないか!と思う人もいるだろう。
もちろん、魔法そう簡単には解けるものではない。
彼女は、家族や友達がいない、違う国に連れて行かれた。
でも、文字を書けば?と思うかも知れない。
もちろんそれも無理だ。
彼女は、自分の名前を忘れた。
だから、彼女を知っている人にしか魔法を解くことはできない。
ところで、どうして彼女は「美」のためにそこまでするのだろうか。
僕は、彼女が好きだけど、その意味はわからない。
魔法を使わなくても、彼女は随分美しいのに。
「魔法」という非科学的な力に手を出してしまうのは、彼女の抑えきれない欲望なのかも知れない。
滑稽で、惨めだなぁ、と思う。
でも、そこが好きなのかもしれない。
惨めで、可哀想で、可愛くて、彼女のことをもっと知りたくなる。
声を失った彼女は、恐らく永遠に言葉を放つことができないだろう。
後悔したのか、いつも泣いていた。
声が出ないので、喉をひくひくと痙攣させながら口を魚のようにパクパクさせていた。
そんなに泣いたら、せっかくの綺麗な目が赤く腫れ上がっちゃうのに…。
目の前を誰かが通るたびに、出ない声を出して自分の名前を叫ぶ。
必死な姿がいじらしくて可愛い。
あまりにも可愛くて、もっと近くで彼女を見たくて。
目の前に立って顔を覗き込んだ。
綺麗な顔立ちに、泣き腫らした目。涙と鼻水ぐしょぐしょになった汚い顔。
涙が洋服にも染み込んで水玉模様のようになっている。
嗚呼、なんて美しい姿なんだ!!!
声を奪っただけで、ここまで美しくなれる!!!
え?僕?
もちろん彼女の名前は知ってるよ?
だって、彼女に魔法をかけてあげたのは僕だもん!!
でも、前の姿より今の姿のほうがこんなにも魅力的!!
名前は呼んであげないよ?
呼んでしまったら、この美しさが壊れてしまうでしょ?
僕が望んでいるのは、彼女がこんなにも美しい顔をぐちゃぐちゃにして、惨めに僕にすがりつく、この瞬間だから!!!
誰かが呼ぶまで。 魔不可 @216mafuka
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