第23話 転移の真相

 昨夜の後片付けもだいたい終わり、悠真はフィネアスに声をかける。フィネアスは毎朝のルーティンだという瞑想中(さっきもしてたような…)だったが、悠真の呼びかけに静かに目を開けた。


 ​「フィネアスさん、アルテミシアへ戻る方法、何かヒントは見つかりましたか?」

 ​「うむ。一晩中、この店の残存魔力を探ってみたが、やはり原因は君の体から発せられる空間を結びつけようとする『力』だ。そして『木彫りの額縁鏡』この二つが、空間の『裂け目』を固定している。君の力が強い時、それは『転移』を引き起こす」

 ​「力が強い時、ですか?例えば、どんな時ですか?」

 ​「推測だが、君の『強い感情の揺れ』や『行動原理に強く紐づいた瞬間』だ。昨日は、魔石付きオークという『命の危機』と、あの『異世界転移により魔改造された鉄の円盤(三枚刃手裏剣)』を手に入れたという『勝機への興奮』が重なった。…そう、そして、あの『カリ梅』だ」


 ​悠真は、一昨日の晩に美咲と食べたカリ梅のことも思い出した。情熱的な夜。あれも一種の「強い感情の揺れ」だ。

 ​「カリ梅が……僕の能力を一時的に強化ブーストさせるのか?」

 ​「いや、違う。あのカリ梅は、君の能力で『魔力回復アイテム』へと変質した。つまり、あれは君自身の魔力を活性化させたのだ。一昨日、君はそれを一日に三個も食べた。その結果、君の能力は過剰に発動し、オークという『異世界からの影響』を、物理的な形として引き寄せてしまった」

 ​「そして、そのカリ梅が異世界へ転移した時に、君の能力が発動した痕跡が、この魔石から読み取れる」

 ​フィネアスは業務用冷蔵庫からオークの魔石を取り出した。魔石の表面が微かに発光している。

 ​「この魔石に宿る魔力と、君の店の『木彫りの額縁鏡』の残存魔力を融合させれば、一時的に『次元の扉』を安定させ、我々がアルテミシアへ戻れるかもしれない」

 

 ​フィネアスは魔石を悠真に差し出した。

 ​「君の店の奥にある鏡が、『世界のシステム』により両世界をつなぐ『核』となった。この魔石付きオークの魔石を鏡に埋め込み、『日本の商品が持つ異世界での価値』によって得た金銭を、対価として捧げるのだ。金銭は、この世界とあの世界を繋ぐ『最も純粋な対価の概念』だからだ」

​悠真は魔石を受け取った。フィネアスは言っている。「店を立て直すという君の商売への情熱」こそが、彼らをアルテミシアへ帰す鍵だと。

​「ただ、もう一つ力を感じる場所がある」と召喚陣コールを指さした。

「あそこからも力を感じるが、アルテミシアで私たちが使う魔法とは仕組みが違う様式で制御されていて、まるで何者かの力を封印している感じがする。あれは一体何なのだ?。お前は本当に何も知らないんだな?」

​ あれは何だと言われても、アニメに出てきた味方キャラを現代日本に呼ぶための召喚陣コールという設定の魔法陣をファンの一人が白地のシートに描いて店内の空きスペースに敷き、アニメの登場キャラクターのぬいぐるみやグッズなどを飾りつけたとしか希実からは聞いていなかった。

​「召喚陣コール」の件は一旦保留し、悠真はフィネアスの言葉に賭けることにした。オークの魔石と木彫りの額縁鏡を融合させる。店を救いたいという自身の「商売への情熱」と、魔石を売ることで得られる「純粋な対価(金銭)」が世界を繋ぐ鍵となる。


​ ​悠真は額縁鏡を店のレジカウンターに立てかけた。豪快な曲線を描く木彫りの龍の額縁は、埃を拭き取ったことで古びた美術品のような威厳を放っている。鏡の中心に分厚く嵌め込まれたガラス面が、鏡の向こうに映るアルテミシアの街並み ―― 石畳の市場と、遠くの城塞 ―― を鮮明に映し出している。

​ ​「鏡に映るアルテミシアは、まるで別の世界のようだ。これが本当に、我々が戻るべき場所なのか」フィネアスが鏡を覗き込み、静かに呟いた。

 ​「フィネアス、時間を無駄にしている場合じゃない! 早く帰って、この『冷気の砦(クーラーボックス)』の秘密を研究したいんだ!」ガルドが焦れたように工具箱を抱えながら急かす。

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