第24話 魔石の融合と帰還 ①

 「これを、鏡に埋め込むんですよね」

 「そうだ。だが、普通では無理だ。魔力的に固定する必要がある。ユウマ、君の『転移能力』を意図的に発動させる必要があるだろう」フィネアスは真剣な顔で言った。

 ​「どうすればいいんだ? 命の危機も、大きな興奮も、今は…」悠真は言葉に詰まる。

 ​その時、リリエッタがパーカーの袖からそっと手を出し、悠真の腕を掴んだ。

 ​「ユウマ。あなたは、この店をどうにかしたいって言ってたわよね? 私の村に近付く魔物は、あなたの『キティの魔除け』で退けられるかもしれない。あなたの店の品物は、アルテミシアの多くの人を助けられるわ。あなたが商売を続けることが、私たちの世界を救うことにも繋がるのよ!」


 ​彼女の透き通った瞳は、悠真の迷いを打ち砕いた。そうだ。この店は、もう駅前シャッター商店街の「おみやげのながもり」ではない。二つの世界を繋ぎ、人々を笑顔にする、唯一無二の「異世界のお土産屋」になるのだ。

 ​「分かった。やるぞ!」

 ​悠真は、魔石を鏡の中心に押し付けた。


(商売への情熱) ✕ (魔石の魔力) ✕ (転移能力) = 次元安定化


 という、フィネアスが心の中で唱えた方程式が、現実のものになろうとしていた。

 ​悠真が「この店を、世界で一番ワクワクする店にする!」と強く念じた瞬間、掌の魔石が激しく鼓動を始めた。

 ​「うおおおおっ!」

 ​魔石は青白い光を放ち、鏡の表面へと溶解するように吸い込まれていく。額縁に彫られた木彫りの龍が、まるで生きているかのようにうねり、魔石を鏡の中心に固定する。鏡の表面は、一瞬にして青い光の渦に覆われた。


 ​光の渦は急速に収縮し、鏡面全体から店の中に透明な水面のような揺らぎを見せ始める。鏡の向こうに映るアルテミシアの市場の光景が、まるでそこにあるかのように鮮明になり、スパイスの効いた異世界の匂いが店内に流れ込んできた。


 ​「開いた! 空間が、 行けるぞ!」フィネアスが興奮気味に叫んだ。

 ​「フィネアスの旦那、今だ! 俺も早く嫁さんとガキ共の所に帰りたいんだ!」ゼノスが落ち着きなく吠える。


 ​悠真はフィネアスたちに忘れてるものがあると告げ、業務用冷蔵庫から、昨日買った肉が入ったレジ袋を取り出しフィアネスに渡す。

「皆な、自分の装備品とせっかくのお土産を日本に置いていかないでくれよ」


「リリエッタまた会おう。これは、僕からのお土産だよ。いちごミルクキャンディーは毎日見に来てくれていたエレンミアに渡してくれ」

 悠真は、彼女の銀髪によく似合うと思って、桜の花を持つキティちゃんがついたヘヤピンと、いちごミルクキャンディーなどが入ったお菓子の詰め合わせの袋を渡した。


 ​「ありがとう、ユウマ!もう一つ魔除けがあれば村の守りも万全ね!。イチゴミルクキャンディーもこんなにたくさんありがとう。にもちゃんと渡すからね、きっと喜ぶわ」リリエッタは満面の笑みでヘヤピンといちごミルクキャンディーの入った袋を受け取った。


「リリエッタ、ヘアピンは魔除けにもなるかもしれないが、こうやって髪につける物なんだ。」

 悠真は袋からヘアピンを取り出し、リリエッタの長い銀色の髪にそっと留めてやった。

 瞬間、彼女の頬が朱に染まり、耳の先まで赤く火照った。

 「あ、ごめん! セクハラだったかな?」

 慌てて謝る悠真に、リリエッタはますます俯き、銀髪の隙間から零れる吐息だけが震える。

 その様子を、フィネアスは一瞬、柔らかく目を細めた。


 そして、悠真には聞こえないエルフ同士のテレパシーでリリエッタに語りかけた。

 ​(フィネアス:リリエッタ、今、ユウマから『花の髪飾り』を受け取ったが理解しているな? それは、エルフの古来よりの『永遠の契り』を意味する結婚の申し込みだぞ。どうするつもりだ?)

(リリエッタ:え、ち、ちぎり……!? ユウマはそんなこと知らないわ!でも…でも、なんだか胸が熱いわ……。フィネアス、このことは黙っていて!)

 ――妙齢のエルフに花の髪飾りを贈る行為がエルフという種族の古来よりのプロポーズの形式であることなど、悠真は知る由もなかった。

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