第20話 爆食いからの飲み会突入
そして、真打ちは麻婆豆腐だった。悠真が特に辛いものをリクエストした一品だ。
「さあ、これは『
ガルドはビールで冷やした口に麻婆豆腐を放り込んだ。一瞬の沈黙の後、彼の顔はたちまち赤くなり、ドワーフの強靭な肉体をもってしても耐えられないほどの熱さに悶え始めた。
「かっ……辛いっ! これは…これは炎の
ガルドは汗と涙を流しながらも、スプーンを止められない。フィネアスも興味本位で口にすると、咳き込みながらも、その複雑な味の構造に唸った。
「辛味の中に、豆(豆腐)と肉(挽肉)と、何よりこの『未知のスパイス(豆板醤や山椒)』の香りが存在する。これは、味覚の領域における『高等錬金術』だ!」
悠真は、異世界からの来訪者たちが、目の前の町中華の料理にこれほどまでの「魔法的」な解釈を加えているのを見て、改めて確信を得た。
(ご当地キティが魔除けになり、中華料理が神々の料理と勘違いされる。日本のありふれた「日常」が、アルテミシアにとっては『高位の魔道具』や『神話級の珍品』に匹敵する価値を持つ。この文化と価値観のギャップこそが、僕の店の最大の武器だ!)
悠真は、地元企業からサンプルでもらった断熱タンブラーを、彼らに提供した。
「ガルド、これを使ってみて。ビールがいつまでも冷たいままだ」
ガルドは、キンキンに冷えた缶ビールをタンブラーに注ぎ、一気に呷った。そして、一口飲むごとに唸り声を上げる。
「ありえん! この飲み口、『氷の精霊』が閉じ込められているのか!? 魔法陣も魔力炉も無い。なぜ、この薄い金属のコップが、冷気を保てる!?」
鍛冶師であるガルドは、その構造に完全に思考を奪われた。彼の頭の中では、「魔法の金属」と「日本の断熱技術」の融合が、既に始まっていた。
「ユウマ、これ、いくらだ? 売ってくれ!この技術があれば、俺はアルテミシアの鍛冶界の王になれる!」
「これはあげますから、アルテミアでも同じ物が出来るか研究してみたらどうですか?」
悠真は、ガルドの技術者としての魂を揺さぶり、商品開発への協力を取り付けた。
夕食はいつしか飲み会に突入。悠真は日本の法律に従い、未成年にしか見えないリリエッタには、烏龍茶やオレンジジュースを勧め、男性陣にはビールと酒各種を振る舞った。
お酒が入ると、フィネアスは故郷のエルダートレントの話を、ガルドは伝説のドワーフの鍛冶師の話を、ゼノスは獣人の部族の伝統の話を、熱っぽく語り始めた。
リリエッタはオレンジジュースを飲みながら、悠真に尋ねた。
「ユウマ、あなたの世界には、どうしてこんなに不思議で、美味しくて、そして便利な『珍品』が溢れているの?私たちの世界では、こんな贅沢は一部の貴族しか許されないわ」
「リリエッタ。さすがに毎日こんなに食べたり飲んだりはしないよ。だけど、僕の世界では、これらはすべて『日常品』なんだ。僕が住むこの町には、これらが当たり前のようにある。でも、誰ももう、その価値に気づかなくなってしまったんだ」悠真は、寂れたシャター商店街の事を思いながら、静かに答えた。
美味しい中華料理と酒に舌鼓を打ち、興奮冷めやらぬ異世界パーティーの夜は深まっていった。悠真もまた、オークとの戦闘の緊張と、一気に押し寄せてきた非日常の波に飲まれ、ドワーフのガルドと日本酒とビールの融合談義に付き合っているうちに、いつしか意識を手放していた。
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