第19話 異世界冒険者 町中華を爆食いする

 買ってきたスウェットにそれぞれ着替えてもらっている間に出前を並べ終え、悠真は異世界冒険者に声をかけた。

「さあ、皆さん、日本の夕ご飯です! 中華料理といいます!」

部屋に広がるのは、醤油、油、香辛料が混ざり合った芳醇な香り。それは彼らの知る世界のどの香りとも異なり、ただちに食欲と好奇心を刺激した。

フィネアス、ガルド、ゼノス、リリエッタは、湯気を立てるチャーハン、麻婆豆腐、酢豚、油淋鶏、そして焼き餃子の匂いに目を奪われた。


​特にドワーフのガルドは、その精巧な造形に唸った。

「この白い皮と餡の組み合わせ…! なんという芸術だ。魔力の痕跡はない。だが、この熱の入り方…我々の世界では、上級の火の精霊魔術師でもなければ再現できん!」

​ガルドは餃子をフォークで差し、悠真が用意した餃子のタレ(ラー油と黒酢を足したもの)につけて一口で頬張った。


​熱い!そして旨い!


​噛み締めた瞬間に、皮のモチモチ感、タレの酸味と辛味が先に襲い、その直後、熱々の肉汁が口いっぱいに弾けた。生姜とニンニクの香りをまとったジューシーな肉の旨みが、彼のドワーフの舌を完全に支配した。

​「う、うまい……! この味、まるで『神々の炎で焼かれた肉塊』のようだ! これが人間の技だと!?」

​鍛冶師であるガルドにとって、高温を完璧にコントロールして肉を焼き上げる技術は、魔法の領域だった。彼は涙を流しながら、次から次へと餃子を平らげていく。その勢いは、まるで長き旅路の果てに最高の鉱石を見つけた職人のようだった。彼はビールを流し込み、さらに餃子を頬張る。


​リリエッタは、彩り豊かな酢豚に興味を示した。

「ユウマ、この透き通った赤色の液体は? もしかして『赤い果実の精霊』を凝縮したものかしら?」

「これは『酢豚』といって、豚肉に甘酸っぱいタレを絡めた料理だよ」

​リリエッタはスプーンでタレを一口。その途端、彼女の顔がパッと輝いた。

「すごい! 甘いだけじゃない、この『酢』が、口の中の細胞を目覚めさせてくれるよう! これは『美の精霊薬』よ!」

​甘味、酸味、そして微かな塩味が絶妙に調和したタレは、彼女が知る薬草や果実酒の類を遥かに超えていた。彼女は、タレに絡んだ玉ねぎ、ピーマン、パイナップル、豚肉を、まるで貴重な薬草を味わうように、少しずつ口に運んだ。特に、シャキシャキとしたピーマンの食感と、衣の中でジューシーさを保った豚肉の対比に、エルフらしい繊細な喜びを見出していた。


​狼の獣人のゼノスは、肉食獣の如く、まず油淋鶏ユーリンチーに食らいついた。

「うおおっ! この揚げた肉のサクサク感! そして、この透明なタレ……酸味と甘みが混ざり合って、まるで獲物の血のように、食欲を掻き立てる! ユウマの言う『中華の勇者』とは、この味を生み出す神話の存在なのか!?」

​外はパリッと、中はジューシーに揚がった鶏肉に、ネギと生姜の風味が効いた酸味のある醤油ベースのタレが染み込んでいる。彼は狼の顔をさらに歪ませ、骨ごと油淋鶏の肉を食い破る勢いで平らげた。

​フィネアスは、山盛りのチャーハンを静かに見つめていた。

「この米粒一つ一つが、油でコーティングされ、全くべたつかない。これは、調理の域を超えている。まるで、熟練の魔術師が、一粒一粒に『分離の魔法セパレーション』をかけているようだ。ユウマ、君たちの世界では、これほど手の込んだ料理が、こんなに安易に手に入るのか?」

​彼は、シンプルな料理の中に、極限まで高められた技術を見抜いた。パラパラとした米粒が口の中でほどけ、卵、ネギ、焼豚の旨味と合わさる。それは、彼が知るアルテミシアの食事とは違い、繊細さと豪快さを兼ね備えた、まさに「文明の粋」だった。彼は静かに、だが確かな驚きを持ってチャーハンを味わった。

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