第3話 エルフの少女との会話
「えっと、(店では税込み1,200円で売ってるから)ワンコイン……って感じかな?」
悠真が人差し指を一本立てると、少女は目を輝かせ、懐から小さな革袋を取り出した。中から出てきたのは、金貨、銀貨、そしていくつかの銅貨だ。
「金貨一枚……いいの!?」
金貨を差し出す少女に、悠真は慌てて首を振る。
「いやいや、金貨は高すぎる!もっと安いやつで……」
少女は悠真の言葉が理解できないようで、きょとんとしている。僕は仕方なく、一番小さな銅貨1枚が300円と見積もって4枚だけ受け取った。
「これで十分だよ」
悠真の言葉に、少女は嬉しそうにキティちゃんのストラップを手に取り、首にかかった革紐に通した。「ありがとう!この魔除けがあれば、森の魔物に村が襲われる心配がなくなる。これで、村のみんなも安心できるわ」
僕は受け取った銅貨を眺めながら、呆然と立ち尽くす。
「……温泉饅頭キティが、村の魔除け?」
日本のご当地土産が、異世界で思わぬ意味を持つことになるとは、夢にも思わなかった。
お金を受け取っておいて聞くのはズルいと思ったがエルフの少女「リリエッタ」に銅貨の価値を確かめる。
「リリエッタ、今さら聞いてすまないがこの銅貨1枚で何が買えるんだ」
「うーん、パンが3〜4個とか。町の食堂は3枚あればお腹一杯食べれるかな」
貨幣の価値は20年前の日本くらいだろうか。
悠真は、この世界のことをいろいろ教えてくれたお礼として、彼女に販促用の「いちごミルクキャンディー」を5、6個あげた。食べ方も分からないようだったので教えてあげると、エルフの少女「リリエッタ」は嬉しそうに店を出て行った。
なぜ、「ご当地キティちゃん」が魔除けになるのかを聞きそびれたが異世界での初めての商売ができて、緊張が緩む。ふと腕時計を見ると、もうすぐ日本は20時。異世界はまだ明るいが、悠真は閉店作業を終え、約束していた美咲の両親が経営する店へ向かう。
店のシャッターをガラガラと降ろし、裏口から日本側に出る。懐かしいアスファルトの匂いが鼻をくすぐった。夜の商店街は、異世界の喧騒とは打って変わり、静まり返っている。
美咲の両親がやっている完全予約制レストラン「美味堂」は、ここから歩いて数分だ。元は「佐倉金物店」という店だったが、郊外に大きなホームセンターが出来たことで、売り上げが減り金物店は閉店。そこを料理が得意だった美咲の母・加奈子さんがオーナーシェフとなり、レストランに改装したのだ。僕はそこで美咲と待ち合わせをしていた。
「遅かったね、悠真。」
「お母さん、悠真来たよ。料理出していい?」
店のドアを開けると、厨房からひょっこり顔を出したのは美咲だった。白いTシャツにエプロン姿。いつもの朗らかな笑顔が、僕の疲れた心を癒してくれる。
カウンターに座っていた父・和央さんがビール瓶とグラスを抱えて立ち上がり、僕にテーブル席に座るよう促す。和央さんとテーブル席に座ると、グラスを渡されビールを注がれた。
「もう、お父さん、料理並べるまで待っててよ」
テーブルに料理を並べている美咲がそう言うと、厨房から加奈子さんが出てきて、全員が席に着き夕食となった。多国籍料理とでもいうのだろうか、どれもすごく美味しくて食が進む。
「今日、おかみさんは
加奈子さんのグラスにビールを注いでいた僕に、加奈子さんが僕の母について尋ねてきた。
「そうなんですよ。毎年恒例の生産者さんとの懇親会ですね」
過疎化した駅前のシャッター商店街にある土産店の経営が維持できているのは、季節の果物や野菜を地元の生産者から直接仕入れ、手頃な価格で産直発送をしているからだ。
今は、道の駅や他の
食事を食べ終わり、美咲と加奈子さんが後片付けに行って、和央さんと二人になると、自然にもう一つの僕の副業の草刈りの委託請負の話になった。和央さんは金物店を畳んだ後、機械いじりが得意という長所を活かし農業機械の販売店を始めた。そこに4年前、動かなくなったエンジン式の刈払機の修理を頼みに行ったのが、美咲達との出会いと副業の始まりだった。
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