第2話 エルフの少女との出会い

「これ……何で出来てるの? 色使いがすごく綺麗……」

 ​透き通るような声で尋ねてきたのは、銀色の髪を持つエルフの少女だった。彼女の視線の先には、僕が試しに一つだけ陳列した「ご当地キティちゃん」のストラップ。温泉饅頭に扮した、鮮やかなピンク色のキティちゃんだ。

 ​「えっと、これは……プラスチック、かな? 樹脂っていう素材で出来てるんだけど……」

 ​僕が戸惑いながら答えると、少女は大きな目をさらに丸くした。

 ​「プラス……チック? 聞いたことがないわ。それに、この可愛らしい魔物は一体何?」

 ​魔物だと?

 ​「これは『キティちゃん』っていう、僕の世界の日本のキャラクターだよ。魔物じゃないよ」


 ​僕がそう訂正すると、少女は不思議そうな顔で首を傾げた。

 ​「魔物じゃないのに、どうしてこんなに愛らしいの? それに、この『オンセン』って文字……もしかして、土地の精霊の名前?」

 ​少女はストラップを指差しながら熱心に話す。僕は彼女の言葉に戸惑うばかりだった。

 ​「土地の精霊……? いや、これは温泉、つまりお湯が湧き出るところのことで……」

 ​「お湯……? 聖なる泉の力を宿しているのね! さすが魔除けの紋様が入っているだけあるわ」


 ​会話が微妙に噛み合わない。どうやら、僕の言葉を彼女なりの解釈で捉えているようだ。

 ​「あの、それは売り物なんだ。ええと……」

 ​悠真は先ほど男が喋っていた言葉を全く理解できなかった。だが、なぜエルフらしき少女とは普通に会話できているのだろうか? また、少女がストラップに書いてある「温泉」という漢字を正しく読んで発音したことにも、僕は大変驚いた。

 ​まずは、彼女に違う世界から来た僕と会話できる理由を、自己紹介も兼ねて尋ねることにした。


 ​「 私は、この店『おみやげのながもり』の店主、長森悠真といいます。元々、異世界の地球という星の日本という国に店があったのですが、気がついたらこの世界に転移していました。なぜあなたは、異世界の私の国の言葉や文字を正しく理解して、普通に会話できているんですか? あなたは見た感じだとエルフという種族とお見受けしましたが、どうしてですか?」


 ​エルフの少女は、僕の問いに目を輝かせながら答えた。

 ​「ああ、異世界から来られた方で、長森悠真というお名前なんですね。ここは「アルテミシア」と呼ばれている世界です。アルテミシア以外に 異世界があるという言い伝えは聞いたことがありますが、実際に人だけじゃなく建物ごと転移したとは驚きました。私も、異世界のあなたの国の言葉や文字が古代エルフ語と同じだなんて、大変興味深く思います。私の名前は、エルフの『白い』一族のリリエッタといいます。私の一族はエルダーエルフに連なる一族で、現在は廃れてしまった古代エルフ語を長老から教わっているので、異世界の単語は分からない言葉が多いですが会話なら多少理解出来るのです」


 ​彼女は続けて、会話が成立するもう一つの理由を教えてくれた。

 ​「この街には私たちエルフを含め色々な種族が生活しています。種族の言葉は様々で、言葉を覚えるのも大変難しく苦労します。だから、みんな魔道具屋で『会話の腕輪コミュニケーター』という魔道具を買って、お互い最低限の意思疎通をしながら暮らしています。値段は銀貨3枚くらいなので、長森悠真も買われたらどうですか?」

 ​とリリエッタは皮製の色とりどりの模様が刻まれたリストバンドを悠真に見せてくれた。悠真もいずれは『会話の腕輪コミュニケーター』を買いに行こうと考えた。

 ただ会話をしながら、僕は言葉だけじゃなく異世界の通貨の事も全く分からないことに今さら気づいた。仕方なく、僕はストラップを指でつまみ、その価値を身振り手振りで伝えることにした。

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