第2章 愛染 vs 刑事

2-1

 2時間後、私は刑事二人を連れて愛染の研究室を訪れた。


「遅い!」


 私たちが部屋に入るなり、彼女は机を叩いて、こう言った。


 愛染はちょっと見には宝塚の男役みたいな美形なので、そうやって真剣に怒るとなかなか迫力がある。

 そのせいで事情の如何いかんに関わらず自分が悪いような気になってしまう。やっかいなことだ。


 しかも、今日の愛染は青みがかったグレーのワイシャツにオリーブ色のベスト、それに鱗紋のような模様が折り込まれた葡萄鼠のネクタイという、いつになくりんとした格好をしているので、さらに威圧感がある。


 挨拶しそこなった私が言いよどんでいる間に、彼女はさらに言いつのった。

「君が刑事を連れてきたところをみると、僕の推理は大筋で間違っていなかったようだね。だとすると、事態は急を要する。1分でも1秒でも惜しい。なのに君らは2時間もかけるなんて。幼児の命をなんだと思っているんだ――」


「まあまあ、愛染先生、私らも手をこまねいているわけではないのですよ」

 私がたじろいでいるのを見かねたのか、年かさのほうの刑事が紹介を待たずに口をはさんだ。

「こうしている間も、多くの刑事たちが犯人を追って地道な捜査を行なっています。じわじわと犯人を追いつめているのですよ。……ああ、申し遅れました。私は警視庁捜査一課特殊犯捜査第二係の杉浦と申します。こちらは三田署の乗田のりた珪子けいこ刑事。――えっと、清水先生のお話によると、誘拐犯と接触されたとか。その辺のところをくわしく教えていただけませんかね?」


 そう言うと刑事たちは愛染が勧めるのを待たずに、愛染のデスクの向かいにあるソファーに腰を下ろした。

 私は部屋の隅からパイプ椅子をもってきて、愛染と刑事たちを同時に見ることができる場所に座った。

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