第12話 番外編~ウソ発見器

 タケルとテツヤが演劇訓練所を出所する数日前、シンがウソ発見器にかけられるというコンテンツが公開された。その動画では、シンがたくさんのコードにつながれた状態で様々な質問に答え、それが本当かウソかを「専門家」が判定するというものだった。

 質問の中に、

「グループのメンバーの中で、今一番会いたい人は誰ですか?」

という質問があった。シンは少し考え、

「うーん、レイジかな?」

そう答えると、専門家は「本当」だと答えた。それを観たタケルの心は凍り付いた。

 訓練所を出所した日、シンがタケルとテツヤに会いに来た。

「よう、ブラザー!」

そう言って入って来たシンは、頭にリボンを巻いていた。彼なりのジョークである。

「シン兄さん!あはは。」

テツヤが笑って出迎え、軽くハグをしたのに対し、タケルの態度はそっけない。

「僕がプレゼントだって言うんでしょ。」

そう突っ込みを入れただけ。シンが差し出した右手を軽く握って握手はしたが、ハグはなし。あまり話も弾まないので、シンは早々にその場を立ち去った。

「あれ、俺何か悪い事したかな。」

シンは首を傾げながら頭に巻いたリボンをほどく。そのリボンを見て、

「喜んでくれると思ったのにな……。」

呟いた。


 「タケル兄さん、なんかシン兄さんに冷たくなかったですか?喧嘩でもしたんですか?」

別れ際にテツヤが言った。いつものギャグに呆れた、とも取れなくはないが、いつもだったら絶対にもっとデレデレするはずのタケルだった。しばらく会わずにいる間に……?と、テツヤは勘繰った。

「いや、喧嘩なんかしてないけど。」

タケルは歯切れが悪い。

「いつもあんなに仲がいいじゃないですか。二人でずっと笑ってるし。むしろ、みんなが呆れて笑わないようなシン兄さんのオヤジギャグも、タケル兄さんだけは笑ってあげるじゃないですか。」

テツヤが言うと、タケルはちらっとテツヤの顔を見て、また下を向いた。

「だってさ……。」

ゴニョゴニョ言うタケル。

「え、何ですか?」

「だって、一番会いたいメンバーが、レイジだって。」

やっぱりゴニョゴニョ言うタケル。

「あー、あれ?あんなのウソでしょうよ。」

テツヤが一笑に付す。

「でも、ウソ発見器は本当だって……。」

タケルが言う。

「シン兄さん、最後に言ってたじゃないですか。嘘を見破られなかった質問はありますかって聞かれて、たくさんあったって。あの質問の答えは、本当はウソですよ。」

テツヤが言う。

「そんなの、わかんないじゃん。」

「分かりますよ。耳が赤くなってたもん。」

「え?」

「タケル兄さんだって、冷静に見れば分かったはずですよ。ウソを言った時の顔でしたよ、レイジって答えた時の顔は。付き合い長いんだから、ウソ発見器なんかよりも俺たちメンバーの方がよっぽど当たるって。」

テツヤにそう言われて、タケルは納得したような、しないような。

「でも、どうしてウソをついたのかな。」

「そりゃ、誰か一人を挙げたら何となく角が立つでしょ。みんなが可愛がってる末っ子のレイジだったら、まあ皆納得するだろうって事でレイジの名を挙げたんですよ。もちろん、シン兄さんとレイジは仲がいいけど、俺はやっぱり、シン兄さんと一番仲がいいのはタケル兄さんだと思うけどな。」

笑顔で言うテツヤに、タケルは思わず赤面した。

「いや、仲がいいなんて、そんな事ないけど。いや、あるかな。うん、まあ。」

タケルは頬にキスされた事を思い出した。そして、タケルの方からキスした事も。その時に、シンの唇が近づいてきた事も……。

「あ、俺ちょっと、行かなきゃ!」

タケルは急に走り出した。シンに冷たい態度を取ってしまった。もう一度ちゃんと、会いに来てくれたお礼を言わなければ。そして、もう一度頭にリボンを巻いてもらって、可愛いと褒めちぎらなければ。

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