王との対面

衛兵たちに囲まれて、レオニールは王宮の前に立っていた。




その姿はもはや、雑貨屋の店番ではなかった。


銀の陽光を受けて立つ横顔には、王位継承者としての威厳と覚悟が滲んでいる。




ミナはその後ろを、数歩後から静かに歩いた。


緊張と不安が入り混じり、胸の奥がきゅっと締め付けられる。




城門の前、衛兵たちが立ち止まる。




「ここまでです、ミナさん」




レオニールが振り返り、穏やかに言った。




「本当は……あのまま静かに暮らせたらと思っていた。けれど、僕には責任がある。だから、行かなくてはならない」




ミナの目に涙が浮かぶ。




「そっか……お別れ、なのね」




彼女は笑おうとしたが、うまくいかなかった。




そのときだった。




城門の奥から、一人の高官らしき使者が姿を現した。




「……ミナ殿ですね。王の命により、あなたも共にお越しください」




「えっ……!?」




驚くミナに、使者は微笑んで言葉を重ねた。




「殿下よりすでにお話が通っております。王が、お会いになりたいと」




ミナは戸惑いながらも、レオニールにうながされ、城の中へ足を踏み入れた。




初めて見る王宮の景色──




高い天井、黄金に縁取られた柱、冷たい大理石の床。




そこに、王──この国の主であり、レオニールの父が、威厳に満ちた姿で座していた。




老齢の王はミナをじっと見つめ、言った。




「そなたが……レオニールが伴ってきた娘か」




ミナは息をのんで、深く頭を下げた。




その横で、レオニールが一歩前に出る。




「父上。ご報告があります」




「……申せ」




レオニールはまっすぐミナを見つめ、そして王に告げた。




「彼女──ミナは、私の命を救ってくれた人であり、私が真に愛する女性です。政略結婚に反発して王宮を出たのも、愛のない結びつきを強いられることが我慢できなかったからです。けれど……彼女と出会い、私は初めて“誰かと生きる”ということの意味を知りました」




王は沈黙し、そのまま視線をミナに移した。




「ミナよ。そなたは、レオニールと生きる覚悟があるか?」




ミナは戸惑いながらも、しっかりと頷いた。




「……はい。身に余ることかもしれませんが、私も……彼を愛しています」




王は目を閉じ、しばしの静寂ののち、低く、しかしはっきりと頷いた。




「……よかろう。そなたの真心が偽りでないのならば、我が子の選んだ妃として、受け入れよう」




ミナは思わず、その場に膝をついた。




レオニールはそっと彼女の肩に手を置き、ささやいた。




「ようやく……伝えられたよ。ありがとう、ミナ」




王宮の大広間に、優しい光が差し込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る