第11話

 彩羽がいつ綾華を殺しにくるのか。正確な時間は把握していない。しかし、いつにしろ屋上は目立ちすぎるため、燎は綾華とともに廃校舎の中に入った。


 すっかり寂れて埃まみれになってしまった教室の一角。捨て置かれた椅子を手繰り寄せ、そこにお互い座る。


 近くにはピアノもあり、そこは音楽室であったが、燎にはこの部屋どのように使われていたのかは分からなかった。


「それで? 燎、くん」


 口馴染のない言葉に戸惑うように、彼女はつっかかりながら燎の名前を呼んだ。


「なんでしょう」


「以前の私はどうやって殺されたのかな?」


 とにかく情報が欲しい、と燎は綾華に話を聞かれた。燎はいつ彩羽が襲ってくるのかとひやひやしながら、彼女が満足するまで知っていることを話す。


 一通り話し終えた頃、すでに以前襲われた時間は過ぎているように思えた。


「――毒か、毒ね。しかも、私の速さに対応してくるか……。厄介ね」


 しばらく思案していた彼女だが、「分かった」とそれだけ言い、立ち上がった。


「どこに行くんですか?」


「屋上よ。ここ居たら来ない可能性があるからね」


「……わざわざ会いに行く気ですか?」


 死ぬかもしれないのに、続く言葉は言い出すことが出来なかった。


「今回は違うでしょ。私はこれから来る敵を知り、君もいる」


「俺じゃあ、あの人には敵わない」


「二人でやれば平気よ。まさか手伝わないなんて言わないよね?」


 綾華は教室を出て行く。燎は慌てて彼女を追った。


 このままここに居れば助かるかもしれないのに。


「校舎内で待って入れば襲われないかもしれないですよ」


「そうね。でも、そうすれば別の人、例えば君が死ぬかもしれない」


 そんなのは嫌なんだ、と綾華は言った。


「それに私は知っている」


「何をですか?」


「彩羽とかいう子がコピーした元だよ。それは『精霊』だ」


「精霊なんて本当にいるんですか?」


「何度もこの禁足地にいるなら戦ってるでしょ。ヘルハウンドとか、あれも精霊だよ。ただのバケモノじゃない。もっとも力は弱いけどね」


 燎は初めて知ることに驚いた。そんなことは施設の誰にも教わっていない。


「もしかして初めて知ったのか? さっきはスルーしたけど、君のいるという施設もきな臭いな」


 屋上への扉が綾華の手によって開かれる。


 ドアを通り、綾華が振り向いた。


「――さて、どうやって倒そうか」


 心底楽しそうに、彼女は告げた。

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