六章 髑髏の怒り
スカーレットの背後に浮かび上がった巨大な髑髏の幻影は、城全体を覆い尽くすほどの威容を誇っていた。その眼窩から放たれる漆黒の光が、ロウクワット一族の光の結界を瞬く間に飲み込んでいく。光は闇に侵食され、まるで色褪せた絵画のように生気を失っていった。結界が崩壊する度に、ロウクワット一族の者たちは苦痛に顔を歪ませ、自らの魔力が逆流するのを感じていた。彼らの魔力は、スカーレットの闇の魔力によって、存在そのものを否定されているかのようだった。魔力の衝突が激しくなるにつれ、辺りの地面はひび割れ、森の木々から枯葉が舞い上がった。
「ば、馬鹿な…! これほどの闇の魔力だと…!?」
ルビアは、顔面蒼白で叫んだ。彼の放つ光の魔力は、スカーレットの影の力の前には、まるで赤子の遊びのようだった。ロウクワット一族の者たちも、恐怖に顔を引きつらせ、震えながら後ずさる。彼らが信じて疑わなかった自分たちの「光の力」が、目の前でいとも簡単に打ち破られていく光景は、彼らの傲慢な精神を根底から揺るがした。彼らは、闇の力は光の力に比べて劣ると教え込まれてきた。しかし、目の前の現実は、彼らの信じてきた世界の理を完全に覆していた。
「貴様らのような欲に塗れた光に、僕の領域を汚す権利はない」
スカーレットの声が、城の門前一帯に響き渡った。その声には、一切の慈悲も容赦もなかった。それは、永い孤独の中で彼が培ってきた、自らの領域と存在を守るための絶対的な意志だった。
彼の右腕が、ゆっくりと宙に掲げられた。漆黒の影が彼の腕に吸い寄せられるように集まり、螺旋状に渦を巻いていく。その中心には、闇を凝縮したかのような、小さな球体が形作られた。それは、まるで漆黒の太陽のようであり、その重みだけで、空間が歪むかのようだった。その球体から発せられる闇の波動は、周囲の全ての光を吸い尽くし、城の周囲は一瞬で深い夜に包まれた。
「消え失せろ」
スカーレットが、そう呟いた瞬間だった。彼の腕から放たれた闇の球体は、雷光のような速さでロウクワット一族へと向かって飛んでいく。それは、彼らが展開していた光の結界を、脆いガラスのように打ち砕いた。結界が砕け散ると同時に、彼らの魔力は完全に無力化され、彼らの全身を痺れさせた。
「ぐああああああっ!」
結界が砕け散ったロウクワット一族は、直撃こそ避けられたものの、その衝撃波と影の魔力の奔流に巻き込まれ、次々と吹き飛ばされた。彼らの放っていた光の魔力は完全に消し飛ばされ、力の源である杖や魔導具も、影の力によって瞬時に砕け散っていく。彼らの誇りであった魔力の結晶が、目の前で塵と化していく。彼らがこれまで自慢してきた力が、ただの砂のように崩れ去るのを目の当たりにして、彼らの心は絶望に染まった。
彼らは地面に叩きつけられ、もはや立ち上がることすらできない。着ていた豪華なローブは破れ、誇っていた枇杷色の髪は泥に塗れ、その瞳からは、もはや傲慢さの欠片もなく、ただ恐怖と絶望の色が浮かんでいた。彼らは、これまで自分たちが他者にしてきたことを、今、自らも体験していた。無力な存在として見下してきた者たちと同じように、圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかったのだ。
スカーレットは、倒れ伏すロウクワット一族を一瞥した。彼の瞳は、感情を失ったままだが、その冷徹な視線は、彼らにとって何よりも恐ろしいものだった。
ジェイドは、スカーレットの圧倒的な力に、ただ呆然と立ち尽くしていた。彼の怒りが、これほどの破壊力を持つとは。恐怖がないと言えば嘘になる。しかし、彼女の心に恐怖よりも強く湧き上がったのは、この恐ろしい力で、自分とこの城を守ってくれたことへの、深い安堵と感謝だった。彼女は、彼が自分を突き放さなかったことを、そして、彼女を守るために怒ってくれたことを、確かに感じ取っていた。
ミィは、スカーレットの足元で、満足げに尾を振っている。まるで、彼の力を誇るかのように。レイブンは、スカーレットの肩で静かに佇んでいた。彼の主の力が、永い時を経てなお衰えていないことに、彼は密かな満足を感じていた。ロウクワット一族は、愚かにも、触れてはならないものに手を出したのだ。彼らに残された道は、ただ一つ。
スカーレットは、倒れ伏すルビアの前に静かに歩み寄った。ルビアは、恐怖に顔を歪ませ、命乞いをしようと口を開いたが、スカーレットの視線に射抜かれ、声が出ない。
「貴様らが、この庭を、そして彼女を汚そうとした罪は重い」
スカーレットの声が、ルビアの耳元で冷ややかに響いた。ロウクワット一族は、文字通り、力の差を見せつけられ、絶望の淵に突き落とされていた。彼らの心に、二度と逆らうことのできない絶対的な恐怖が刻み込まれた瞬間だった。
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