第56話 密会

 目の前には知らない女がソファに座っていた。


 サングラスを掛け、長い髪に真っ赤な口紅。服装は上下赤のレザーにミニスカがセットで、スラリと伸びる生脚を組み大人の雰囲気を漂わせていた。


 歳は俺より6,7くらい上だろうか?


「……」


「すみません、間違えました」


 バシバシ!


 個室から出ようとすると、女は無言でソファを叩いた後、向かいのソファを指差した。


 座れって事か?


 仕方なく、女の向かいのソファに座る。


「あの……」


「……」


 女は暫く無言を貫いたあと、テーブルの上に置いてあったタバコを一本取り出して火をつけた。


「フー……、さぁて誰でしょう?」


「あっ」


 思わず声を出す。声の主はそう、郡上千景だった。


「やっと分かったみたいね、フー……」


「マジか……煙草吸っていいのかよ?」


「法律上は問題無いわよ? フー……」


「って事はGは何歳だよ? って、アンタ現役女子高生じゃ無かったのかよ。道理で妙に落ち着いていると思ったら……」


「レディに年齢を聞くのはCのルールその五に反するわよ? フー……、どう? まだまだいけるでしょ? 本当はA君と一緒の2年生に転入したかったのにTが身の程わきまえろって……ブツブツ」


「何でルールの事まで知ってるんだよ? ったく、調子狂う」


 それにしても全然気付かなかった。女は化粧で化けると言うけど、この人は元が良いからな。年相応の格好をする目の前に居る彼女が本当の姿なんだろう。


 チャミのルールの事を知っていたりと、色々と千景について引っ掛かることが有るが、そんな細かい事を気にしてきたらそもそも俺のミッションなんて達成出来るはずがない。


「お待たせ❤️ 何から話す?」


 吸っていたタバコを灰皿に捨てると、千景はサングラスを外した。


「……」


「あら? まさか私に惚れちゃった?」


 女ってのはやっぱ怖いわ。

 化粧、服装でここまで変わるんだから。


「……文化祭の件で話したい」


「良いわよ❤️」


「このイベントで少なくても三年生の90%以上、2年生で50%以上、1年生で30%以上の検体を取れるか取れないかで俺達のミッションが達成出来るか出来ないか決まると考えている」


「その根拠は?」


「根拠としての数字は出せないけど、長引けば長引くほど俺達にとっては不利だと思う。言わずもがな、一刻も早く3年生の女子生徒の検体は入手したい」


「ふふふ」


 千景は口元に手をつけて小さく笑い出した。


「何が面白い?」


 カチンときて喧嘩腰で千景に聞く。


「私も貴方の考えに賛成よ。でも、貴方は一つ見落としている」


「見落としているだって?」


「そう」


「……」


「ふふふ、そう言う所が好きよ? 私から喋らない限り貴方は絶対に私に聞かない、そうでしょ?」


「……」


「A君、いいえ、Tもそうだけど、貴方達は学園の誰を対象に探していたの?」


 千景の質問の意図が分からなかったが答える。


「誰って、学園の女子生徒……まさか!」


「ふふふ、気付いたみたいね。だから私は貴方の事を気に入ってるの」


「対象は学園の女子生徒だけじゃ無い? 教師も……」


「そう言う事。手紙には学園に居る娘を探し出してみなさいって書いてあった。この手紙を書いた人は狡猾ね。誰でも娘って書いてあったら女子生徒と連想する。でも、女子生徒とは一言も書いてない。私達を撹乱させる為に敢えてあやふやに書いたかも」


「そうなってくるとちょっと厄介だぞ」


 シュボッ


 千景はタバコをもう一本火を点けて吸い始めた。


「フー……、でも安心して? 教師の名簿はもう入手済なの」


 千景は鞄から一枚の紙を取り出して俺の前でヒラヒラさせてきた。


「これは……」


 紙をとろうとすると、千景はスッと鞄に入れてしまった。


「だから貴方の協力が必要なの」


 女子生徒が対象だとばかり考えていた。迂闊だ。確かに千景の言う通り、女子生徒だけが対象じゃなさそうだ。


「分かった。それを加味してGに協力する」


「ありがと。じゃあ早速だけど文化祭のプランはどうする?」


 俺は、千景の質問に対して自身の考えを伝える。出し物として、検体が入手出来る出し物が必要だと。


「何か良い方法はあるか?」


「そうね……例えば、対象者が口を付けたりする方法……何か思いつかない?」


 やりたくない方法だが、一つ集客が見込める方法が俺の中にあった。


「……有る。いや、違和感が無いよう事前に女子生徒全員に刷り込む必要が有る。方法は……美容」


「刷り込む? 美容? ふふ、何か面白そう。詳しく教えてくれるかしら?」


「いや……二週間後、ここで結果を話す。俺のプランが駄目だった場合も考慮して、Gも何か考えて欲しい」


 チラッと千景の顔を見ると千景はサングラスを掛け直していて表情は読めなかった。


「分かったわ。二週間後のこの時間にお互いのプランを話し合いましょう。他に何か話したいことある? 色々と聞きたそうな顔してるわね❤️」


 目の前に居る千景は足を組み直し、俺にわざと生足を見せつける様な仕草をする。


「俺の仕事部屋のマンションだけど、Tとアンタ以外に誰か知ってるか?」


「いいえ、知らないはずよ。何かあったの?」


「夏休み中に宅配業者が来た。俺は何も頼んで無いし、確認したら不在票も入ってなかった」


 千景の顔が一瞬険しい顔になった。


「それからは来てない?」


「その一度だけ」


「……そう」


「何か心当たりがあるのか?」


「……いいえ。今は余計な心配はしないで」


「分かった」


 千景は俺の顔をジッと見て微笑んできた。


「何企んでいるんだ?」


「そんなに私に対して攻撃的にならないで。Cのルールに背くわよ?」


「どうしてCのルールに詳しいんだ? あれは俺とCの間の決め事であって誰も知らないはず」


「さぁ、どうしてかしら?」


 のらりくらりと俺の質問をかわす。


「これから同じ目標の為に行動するパートナーとして隠し事は無しにしないか? このままじゃGを信頼出来ない」


「えー? それは困る❤️ でも喋りたくないのー❤️」


「もういい……話は無かったことにしてくれ」


 俺は席を立って帰る準備を始めた。


 バンッ


 千景が突然テーブルを叩き口を開いた。


「Cは私の元パートナー。そして、私の親友。彼女は貴方の成長を嬉しそうに私に教えてくれた。だから、貴方は私の親友の大切な子。そして、私は貴方を守る責任がある。この話を信用するかしないかはAが決めて」


「……二週間後、同じ時間のこの場所で。俺は先に出るよ」


 何とも言えない気分だった。千景は俺の気を引く為にチャミさんの名前を出して嘘をついたのか? だとしたらもっとマシな嘘もつけられるし、ルールの事もチャミさんが教えない限り知る由もない。


 クソッ


 俺は千景を信用していいのか?


 いや、そんな事はどうでも良いか……


 利用するモノは全部利用してやる。


 裏切られたらその時はその時だ。

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コッソリと女子校生の〇〇を採集しているワケ 〜おれだけが知っている彼女達の事情〜 辺津ている @Omote-Ura

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