第4話 大次郎の語り

 食事が一段落し、何くれとなく世間話をしていたところ、了念がふと問いかけた。


 「差し支えなければ、大次郎殿。旅の目的を伺ってもよろしいかな?」


 その問いに、大次郎は一瞬、箸を止めた。

 だが、了念の目を見て、口を開く決意をする。


 「……隠すようなことではござらぬ。拙者、叔父の仇を追って、この旅に出ております」


 了念の目が、微かに細められる。


 「仇討ちとな…。」


 「さよう。叔父は、拙者の養家の人間にて――」


 と、そこで大次郎は深く息をつき、己の身の上を静かに語り始めた。


 囲炉裏の火が、ぱちりと音を立てた。大次郎の影が、壁に揺れる。


 「拙者、生まれは去る御家に仕える家でござったが、さほど禄高のある家でもなく、次男ゆえに家督を継ぐことも叶わず、せめて腕ひとつで生きてゆこうと、幼少の頃より城下の一刀流道場に通っておりました」


 了念は何も言わず、黙って湯を注いだ茶碗を差し出す。


 「十八の折、ようやく切紙を受け、一門の中でもまずまずの腕と目されるようになった頃、養子の話が舞い込みましてな。叔母夫婦に子がいないまま叔母が亡くなってしまったため、跡継ぎがおらず、叔父から養子にこないかと……ありがたい話でござった」


 大次郎は湯を一口すすり、つと視線を囲炉裏の火へ落とす。


 「それが決まり、叔父の家で暮らすようになって一年も経たぬうち……叔父が、殺されました」


 「……」


 「勘定方の役目についていた叔父が、所用で外に出た帰りに、路地裏で斬られていた。やったのは、佐久間右近という同じ勘定方の同僚の男と見られ……その晩を最後に、屋敷から姿を消し、行方知れずとなりました」


 了念は小さく頷く。


 「家名存続のため、仇討ちを果たせと、親族一同から強く求められました。拙者も、恩義ある叔父の死を前に、黙って見過ごすわけにはまいりませぬ」


 「……それで、仇討ちを?」


 「左様。叔父の上役や重役方も、同情を寄せてくださり、すぐに免状が下り申した。以来、佐久間を追っての旅路……今は、江戸屋敷の者があの男を見かけたという知らせを受け、江戸を目指しておる途中でございます」


 大次郎は、語り終えると、ゆるりと湯呑みを置いた。


 了念は目を閉じたまま、しばし何も言わなかった。

 やがて、静かに目を開く。


 「……若き日の、拙僧に似ておられる」


 「……は?」


 了念は、囲炉裏の火を見つめたまま、しばし沈黙した。


 「拙僧もまた――かつては仇を追った者でございます」


 そう言う了念の面差しには、どこか遠くを見つめるような、静かな陰がさしていた。


 「……その話、他人事とは思えませぬ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る