第3話 たどり着いた山寺
ほどなくして、低く苔むした石段が現れた。
石段の先には、樹齢を経た杉の並木。
その奥に、朽ちかけながらも威厳を残した山門が、静かに佇んでいる。
輪念寺――。
山門の上に掛けられた額には、風雨に晒されながらも、そう墨で書かれていた。
(……変わった名だな)
大次郎が思わず目を細めたその時、経を読む声が、ますます明瞭に響いてきた。
声の主は本堂の中にいるらしい。
足を踏み入れ、回廊を渡って本堂の前に立つと、読経の声がぴたりと止んだ。
戸がゆっくりと開かれた。
出てきたのは、年のころ六十ばかりか、白髪交じりの頭を剃り上げた僧である。
痩身だが、肩幅は広く、立ち姿にはただならぬ気配があった。
その男は、大次郎見て一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに穏やかに話しかけた。
「おや、旅のお方か。よろしければ、こちらへ」
大次郎は軽く礼をし、名を名乗った。
「拙者、須藤大次郎と申す。日が暮れかかっておりますゆえ、一夜の宿をお願いできればと思いまして……」
僧は大次郎を細め、なぜか遠くを見るような、それでいて親しい者迎えるような視線を向けつつ頷いた。
「これはこれは。ようお越しなされました。拙僧、了念と申す。あいにく、古寺の 粗末なもてなししかできませぬが、それでよろしければ、ご案内いたしましょう」
そう言って了念が前を歩き出し、大次郎がそのあとを静かに続く。
廊下を渡るその僧の足取りを見て、大次郎の眉がわずかに動いた。
(この住職、ただ者ではないな……それに…どこか・・・)
ただの寺僧にしては、あまりに無駄のない身のこなしだった。
歩幅といい、膝の使い方といい、武芸のそれもかなりの修行をつんだ者に見えた。
また、この僧の所作に奇妙な親近感を感じていた。
なぜかよく知る人物に合ったような……。
庫裡に案内されると、炉に火が入っていた。
炊きかけの雑穀飯の香りがほのかに立ち上る。
了念が湯を沸かしている間、大次郎は袴を解き、軽装に着替えた。
やがて、簡素ながら滋味のある夕餉が二人の前に並べられる。
「さ、お構いもできませんが」
そう言って、了念が手を合わせた。
大次郎も了念に続いて手を合わせると、二人は黙々と夕餉を口に運んだ。
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