第3話  女子高生のわたし、戦艦の艦長に… ③

「マスター、ご指示を。第二波が来ます。敵性勢力の駆逐を。ワタシが健在な限り中の人々は安全です」



あの、蟲の化け物を吹っ飛ばした直後、アリスはわたしに指示を出す。


いや、確かに他の乗客の事は気になるけど…

それどころじゃない!


「お姉さん!酔っ払いのお姉さん!!孫麗玲さん!!!」


わたしは多分、涙目になってたと思うけど、咄嗟に孫麗玲さんに助けを求めていた。


「ああん?何でアタシの事知ってんだ?もしかしてテメェも…」

何か凄まれるわたし。

何にも知らないわよ!あなたの事なんて!ただの酔っ払いの恐いお姉さんよっ!!


とりあえず、孫麗玲さんで間違いはなかったみたい。

「そ、そんなの!落ちてたあなたの物と思われるチケットを拾ったからですっ!」


「チケットだぁ?」

自分のチケットを探す孫麗玲さん。

チッ!と舌打ち。

え~っ、舌打ちするところ、ここ?

「何ですぐ返さなかった?」

ちょっぴりバツが悪そうに言う孫麗玲さん。

「そ、そんなの!ただの女子高生には、あなたは、恐すぎますっ!」

切羽詰まってたから、デリカシーも忖度も一切無し。ありのままの事実を口にする。


それを聞いた孫麗玲さんは、アッハッハ!と大笑い。

笑うところ、ここ?


「チッ!仕方ない。こんな所でくたばるのは、アタシもごめんだからな。少しは助言してやる。いいか、お嬢ちゃん。まず、てめぇが今何を持ってて、何ができるのか、きっちり把握しろ。次に、敵が何匹いて、どう動くか、穴が開くほど観察しろ。それができりゃ、そう簡単には負けねぇよ。『彼を知り己を知れば』ってやつだ」


お酒をポケットにしまう孫麗玲さん。


「おい。アリスって言ったな。この艦の今使える武装を教えろ」

孫麗玲さんの言葉に反応せず、わたしを見つめるアリス。


「アリス、お願い」

「畏まりました、マスター」


この娘、いちいちわたしが言わないとダメなのかしら?


アリスが提示したのは、対空砲火用の機銃と両舷のミサイル。それと、さっきのカノン砲。


「チッ!これだけかよ…だがまぁ、これだけあれば十分だ。お嬢ちゃん。繰り返す様だが、アタシも…分けのわからんところでくたばるのはゴメンだ。とりあえず、言う通りにしろ」


な、なんなの、この酔っ払いお姉さん…もしかして、すごい人なの?


「は、はいっ!」


なんでも良い!頼れるのはこの人だけだわっ!


「次、来る。小さいのと早いの、大きなムカデが、群れを率いてる」

そういえば、ヒメカもいたっけ…

また、例の『予言』みたいなのかしら?


「マスター、第二波来ます」

間髪入れず、アリスも同じ事言うし…


わたしは後ろを振り向く。


「お嬢ちゃん。先ずは対空砲火を敷け!弾幕を張れ!敵を近づけさせるな!」


「は、はいっ!アリス!対空砲火ッ!」

「畏まりました、マスター」


わたしの指示でアリスは対空砲火の機銃を撃ち始める。


「先ずは由。次だ、ミサイルの性能を確かめる。両舷から1発づつぶっ放せ!射程に入ったら、やれ!」


何て、冷静なの、この人。

本当に酔っ払い?

もしかして、軍人さんなの?


「アリス言う通りにして!それから、彼女の質問には答えて」

「畏まりました、マスター」


直後、ミサイルが放たれる。

着弾すると大きな爆発が起こる。


す、すごい…


それにしても、爆発光で照らされる蟲。

き、気持ち悪い数、いる…

普通の女の子にとって蟲は天敵だからっ!


「なかなかの威力とホーミング性能だな。先ずは由。装填数は?」

「最大6発です。残り5発です。再装填には…」

「そんな事は後で良い。5発もあれば充分だろう」


な、何このやり取り…

素人のわたしは、ポカ~ンとするしかない。


「由。お嬢ちゃん。10秒事に両舷から1発づつミサイルをぶっ放せ!その間にカノン砲のエネルギーを充填してド真ん中に照準をあわせておけ!」

「は、はい!アリスお願い!」

「畏まりました、マスター」


な、なんというか、ただの承認マシーンになってるわね、わたし。



10秒経過…


「アリス!ミサイル発射!そ、それからカノン砲のエネルギー充填!照準を中央にっ!」

きっかり、10秒。わたしはアリスに指示を出す。

わたしのちょっぴり自慢できる特技の1つ体内時計。わたしの短時間の体内時計は完璧っ!

寸分の狂いなく指示するわたし。

アーチェリーとかの競技の関係上、時間大事だからっ!


次々現れる蟲の群れをテンポよく時間差で着弾するミサイルが吹き飛ばしていく。


「先ずは由。お嬢ちゃん。こうして、敵を端から追い込むのは基本だ。よく覚えておけ」

「はっ、はい!」


なんだかんだで、指導されてる?わたし…

「アタシの予測では、取り巻きのザコムシ倒された大物が5発目から10秒くらいで見えてくる。みえたら…蟲ヤローの顔面めがけてフルパワーでぶっ放せっ!」

「はっ、はい!アリス!」

孫麗玲さんに言われるまま指示を出す。

たしかに、子供の頃、鬼ごっことかで周りから追い込んだりしたっけ。


そうこう、考えていると最後の5発目のミサイルが着弾する。


いまから!10秒!


9…


8……


7………


6…………


5……………


4………………


3…………………


2……………………


1………………………


0ッ!!!!!!!


見えたっ!ムカデ!!


今ッ!!!


「アリス!カノン砲、フルパワーで発射!」

「畏まりました、マスター」


わたしの指示と同時にさっき蟲を吹き飛ばしたカノン砲を撃つわたし。

フルパワーなのと、火線を集中してるからなのか、さっきのとは比べ物にならない威力だわっ!



カノン砲はムカデを一気に薙ぎ払う。

す、すごい…威力。


「マスター、敵性勢力の駆逐を確認」

「へ〜、やるじゃないか、お嬢ちゃん。ヴァージンの割には上出来だ。先ずは由、だな」


よ、よかった…

とりあえず、護れた…


安堵したからかなのか、急にフラフラしてくるわたし。


そのまま、意識を失いました。


ーマスターっ!マスターっ!!如何されましたかっ!マスターァァァッ!!ー


アリスの声が薄れ行く意識の中に響いていた…

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