第18話 二ヶ月前、母の狂う過程3
アヤナは何も言わず頷いた、祖母の言う通りアヤナがこの家にいることは母に気づかれてしまった可能性が高い。それなら今すぐにでも移動したほうがいいのだろう。でも。
もし母がおばあちゃんの家にきたら。
その考えが脳裏をかすめる。身体から汗が吹き出し呼吸が荒くなるのがわかった。様々な事について思考している間に祖母はアヤナが東京に帰る準備をすでにはじめていた。正確にはお弁当を手早く作りはじめた。
それはアヤナが幼少期からよく作ってくれたオニギリと玉子焼きだった。
「あやちゃん、余り物だけどおにぎりを作ったから」
祖母は最後に風呂敷で包み、アヤナに手渡した。受け取った時にアヤナの手を添えて優しく撫でてくれた。その暖かさが堪らなく愛おしく、涙が込み上げてきた。
「おばあちゃん、必ず、必ずまた遊びにくるから!だから、何かあったらかならず連絡してね。」
「もちろん、ちゃんとあやちゃんに連絡するよ。また遊びにおいで」
アヤナは祖母に見送られながら家を後にした。
祖母の家からバスに乗り最寄りの駅に向う、大体三〇分ほどの距離だ。
その間、アヤナは父のスマートフォンに連絡を入れた。五コールしても出ないので留守電も残さず切る。
母の事で父が奔走して忙しいのは知っているので、電話に出ないことは想像できた。
やはり警察に相談するべきだろうか、考えるまでもなくそうするべきだろう。
しかし母が人を殺した。その事実を警察に話をすることが、現実を受け入れられない自分がいた。
そして母のことも気になるが、父のことも同じぐらい心配だ。根拠のない妄想だが母のことを解決するために父はとんでもない世界に足を踏み入れてしまったのではないだろうか。そう思わずにいられない。
アヤナの知る父の姿は実直を絵に書いたような人だ。でも決して堅物とかではなく柔軟な思考が出来る人であり何か考えがあっての言葉だと感じた。
父に任せて自分はこのまま隠れていた方がいいのかもしれない。ただこのままでは大好きな祖母やもしかしたら自分の周りの友人達にまで被害が及ぶ可能性まである、警察に全て任せるだけで果たして被害を防ぐことができるだろうか。
それでは遅すぎる、そして自分が行動するにしても到底1人では解決できない。
これは誰かに協力をお願いする必要がある。
母の狂気に巻き込まれても屈しない強い意志と自我のある人を探さなければ。
もう一度スマホを取り出し連絡先の一覧を確認する。友人のと塾の連絡先が殆どであり、協力してくれそうな人は見当たらない。
諦めてかけたその時五〇音順に並べられていた連絡先がま行に入った。
「いた。」
思わず声に出してしましたアヤナ。
松本 美亜。
動画配信をしている。高校の同級生であり入学式同じクラスになってから良く話すようになった。彼女なら協力してくれるかもしれない。
松本美亜の印象は良くも悪くも好奇心旺盛なところだ。自分が気になったことは徹底的に調べ尽くす。例えば、流行りの食べ物があったとするとまずその歴史などから調べ、メディアに出ている情報の精査、独自の統計を取りつつ、有識者に自らアポイントを取り情報を獲得していく姿はまるでジャーナリストだ。
今回の事件、彼女が興味を持てば必ず力になってくれるはずだ。
1つ恐れていることがあるとすれば私達家族の出来事は彼女にとっては道楽でしかない。彼女がどこまで真摯に協力的かは話してみないと分らない。
不安はあったがすぐにすぐに松本美亜の名前をタップし連絡をしてみる。
「は〜あいミアだよ。アヤナ久しぶりだね、どした〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます