第12話 二ヶ月前〜妻の狂う過程2

次の日、好美に付き添い病院の検査を受けさせた。結果は【グレイヴヤード因子】というものに感染していることが分かった。聞いたこともない病名だが医療業界では密かに問題になっているのだとか。混乱を避けるために政府が報道規制をかけており感染している本人と親族にしか伝えておらず、行政や医療関係者には箝口令が敷かれているとのことだ。

 日本全国でこの症状が広まっており、特設された隔離施設はすでに満員。現在の医療では治す方法はなく施設に入れない感染者は自宅療養を余儀なくされている。

 好美は症状の進行具合としてはステージ二であり、症状として記憶障害や味覚の異常だという。

 「奥様の記憶障害が送り始めたのは大体いつ頃からですか?」

 医師の中野はあくまで事務的にだがどこか同情を禁じ得ない表情しながら話を切り出した。

 「大体、三週間くらい前でしょうか、物忘れが多くなったと」

 中野はそれを聞いてから六つのカルテを見せてくれた。

 「単刀直入に申し上げますと奥様の病気の侵食具合は非常に早いです。何も対策を取らなければ今月中にステージ三に到達するかと思われます。早急に対策が必要かと」

 「でも病床は全て埋まっているんですよね、入院もできないこの状況でどうすれば」

 「おっしゃる通り病床は全て埋まっております。今ササキさんが出来る手段としては自宅での隔離を一番有効かもしれません。ご家庭によっては監禁をしているそうです。」

 「ステージ三は確か、人を襲う危険があるんですよね!?自宅療養はあまりにも危険すぎるのではないでしょうか、娘もいますし」

 「ササキさん、お気持ちはわかりますが、この病気について我々は何もわかっていないんですよ、どうしてこの症状がでるのか原因を理解している医師が非常に少ないんです。」

 「何とかならないのでのでしょうか。」

 「申し訳ありませんが」

 中野はそれ以上は何も言えなかった。

 ササキは中野の腕をいつの間にか強く掴んでいおり詰め寄るような姿勢になっていた。慌てて腕を離し、「すみません。」と一言残し診察室を後にした。

 ササキは診察室をでて好美とともに車で帰宅する道中、運転に集中した。現状から逃げ出したいという思考から逃げるように。

 好美は先程から一言も話さなかった。ずっと後部座席で窓の外を覗いている。その目には怒りも悲しみも映し出しておらず心ここにあらずという状態だった。

 「悩んでいても仕方ない。」

 家に着く頃にはある程度気持ちは落ち着いたササキはまだ分からない将来の事よりもこれからどうするか、目の前の問題について対策を考える事にした。

 まだ物忘れや徘徊癖がついた程度、家族全員で協力して補助すれば当面は大丈夫なのではないかと考えた。

佐々木は娘のアヤナと協力をして好美の補助する形で生活をはじめた。仕事や学校もあるので一日のルーティンやタスクを書きだしてもらいそれが終わっているか一つずつ丁寧にチェックしていった。家事なども出勤前に出来る事は協力していった。

 好美も常に物忘れが起きる訳ではなく意識することで改善されつつあった。

 徘徊癖も気づかないうちに知らない場所にいる事もあったがササキはその度に車で迎えに行った。

「きっとなんとかなる。家族で協力すれば、、、」

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