第11話 二ヶ月前〜妻の狂う過程
五月一六日 六時三〇分(二ヶ月前)
妻の、好美の様子がおかしいと感じたのは二ヶ月ほど前のことだ。
「あなた、今日の夕飯はグラタンよ。」
「いや、昨日もグラタンだっただろ?」
「そうだったかしら?」
少し天然な性格をしている妻ではあるが、こういう間違いはなかった。
「わかったわ、それっじゃあまた考えるわね。アヤナ~起きなさ~い」
好美は二階でまだ眠っている娘に向けて大きな声で呼ぶ。そろそろ学校へ行く準備をしないと遅刻する時間だ。最近テストが近いからと夜遅くまで勉強してるからだろう、寝起きの反応が悪いとは思いつつも勉学に励む我が娘は立派だと思う。
呼んでも反応のない娘に対して好美は娘をおこしに部屋へむかった。
思えばあのときが最初の変化だったのだろうか。
それから好美は物忘れや、整理整頓ができなくなるなど、日々の生活の支障がでるようなるのに時間はかからなかった。
「最近、調子でも悪いのか?」
仕事から帰宅し、冷蔵庫からボトルに入っているお茶を取り出す、コップを二つ用意しテーブルに座る。好美も向かいに座るが頭を抱えるように疲れていた。
「最近なんか調子がわるくて、物忘れも多いし、掃除も上手くできないのよ。」
「おいおい、痴呆症にはまだ早いだろ」
軽口を叩いてみたが、好美は本当に辛そうだ。
「一度病院にいってみたらどうだ?」
「そうね、早速明日行ってみるわ。本当に痴呆症とかっだったらどうしましょう」
「もしそうだとしても、今考えるのはやめて。とりあえず今日はもう寝よう。」
次の日、好美は病院に向かった、家から電車で隣の駅なので特に心配はしていなかった。
しかし一七時頃に娘のアヤナからスマホに連絡があった。家に好美がいないと言う。すぐに病院に連絡を入れてみたが午前中のうちに精算を終えて退院したとの返答だった。
その後、知り合いやパート先へ連絡をしてみたが姿は見ていないという。翌日警察に捜索願いを出し、ササキは思い当たる場所を探し続けた。
翌日好美は何事もなかったように帰宅したのであった。
多少の疲労感はあるものの好美はどこか近所に買い物をしてきたと言わんばかりに、当たり前に帰宅してきたのだ。
「好美、今までどこに行っていたんだ。病院に行ってからもう三日だぞ」
ササキが声を荒げて聞くと好美も驚いたように目を丸くして言葉を失う。三日も経っていたということに失踪していた本人がどうやら気がついていなかったようだ。
「ああ……」
好美は玄関で膝崩れ落ち両手で顔を覆い悲鳴をあげて号泣した。
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