第13話 二ヶ月前〜妻の狂う過程3
二〇二四年六月二〇日 一時一〇分
ある深夜の事だ。
「好美。こんな夜にキッチンで何をしているんだ。」
夜、ササキは目を覚ました。話を刺激する酷い匂いは部屋の外から漂っていた。
家の二階は寝室になっており、アヤナの部屋は自分と好美の向いの別室になっている。階段は丁度その中間にあった。部屋を出ると臭いはさらに強くなりどうやら一階が発生源のようだった。
まだ頭が覚醒しない中ゆっくりと階段を降りる、臭いはキッチンからでありさらに酷く生臭い。ササキは思わず鼻をつまんだ。おそらく生ものであるのは分かったが、一体なんの臭いなのだろう、キッチンに向かうと部屋は暗く、調理場の間接照明だけがひどく明るくなっていた。
「なにって、見てわからない?アヤナのお弁当をつくっているのよ?最近調子悪くて作れていなかったでしょ?その準備をしているのよ。」
「準備?こんな遅い時間にすることか?今深夜の二時だぞ?」
「あら?もうそんな時間だったの。気づかなかったわ」
いつもどおりのとぼけたような反応だ。少し安心したのもつかのまひどい異臭について聞く
「ちなみに食材は何をつかっているんだ、すごい臭いだぞ」
「そうかしら、とてもいい匂いよ?風邪でもひいたんじゃない?」
そう言って振り返った妻の姿に佐々木の眠気は吹き飛んだ。いつものお気に入りだと言っていた若草色のエプロンが返り血で真っ赤に染まっていたのだ。しかもキッチンの照明しかつけていないので暗くて分からないが相当な量の血があたりに飛び散っている。まるで殺人現場、見えないのがより一層不気味に見せていた。
「好美……今日もはもう遅い、明日はお弁当がなくていい、片づけてゆっくり休んでくれ」
とりあえず、佐々木はこの状況を一旦止めることにした。このまま放置して行動をさせてしまったら取り返しのつかなくなるのは目に見えている。
最近少しずつおかしいと思っていたがとんでもない方向に向かっている。病院で聞いた話では発症から姿が変わるまで一年と聞いている。姿が変わらなくてもすでにためらいもなく殺人を行えるというのはすでに自分の手には負えない状況になってしまっている。娘へ危害出る前に実家へ預けるべきだ。
(この病名も症状も結果だけしか分かっていないんですよ、どうして、この症状がでるかも分かっている先生は非常に少ないんです。)
ササキは医師が言っていた事をふと思い出した。
少ないとは言ったが存在しないとは言っていない。
もはやなりふり構っていられる余裕はなかった。ササキは朝一番で病院に行くことを決意する。
そして娘のアヤナの部屋へ向かった。
この先何があるのか予測がつかない、祖母の家に一時的に避難させるべきだろう。
翌朝、ササキは朝一番に病院へ車を走らせた。中野ともう一度話をするためだ。
診療時間を待っていては、時間が決まっており他の患者や先生の目が気になる。この早朝に中野を捕まえて詰問すれば何か引き出せるかもしれない。
あの時の自分は本当に追い詰められていたのだろう。小さな果物ナイフをポケットに忍ばせるくらいには。
佐々木は病院の入り口がよく見える。一番近い駐車場に車を停めてひたすら待った。
二時間経過した頃、七時三十分を回った頃、中野は現れた。
二〇代の看護師だろうか、仲良く手を絡ませて仲睦まじい姿を目撃する。
ササキは口角を大きく釣り上げた。
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