第10話 蒼眼の怪物3
七
二〇二四年七月一一日 一五時二〇分
白い怪物は変わり果てた彼女に向かって吠えて走り出した。
その声の大きさに今度は顔ではなく耳を覆う羽目になった。蜂の怪物も呼応するかのように悲鳴にも似た甲高い雄叫びをあげる。
一メートル程の距離まで近づくと白い怪物は飛びかかり蜂の怪物を押し倒した。
「あの醜い白い怪物は【グレイヴヤード因子】に感染した患者に唯一対抗できる生物兵器、ブレイクです。あのスマートフォンを使用して人間を怪物へ文字通り【変身】させます」
白い怪物、ブレイクは蜂の怪物にむけて拳を作り振り下ろす。その度に金属のように固そうな皮膚はスポンジケーキのように潰されてしまった。それを胸、腹、頭部になんの躊躇いもなく叩きつけた。それを続けるうちに叩く音がだんだん弱くなる。身体を叩きすぎて体積が薄くなり、肉が潰れる音は、水風船が割れるような音に変わった。
その光景を呆然と眺めていたササキは思わず胃の中のものを全て戻してしまった。
「私もあれになれと?」
ふと、タカシロに目線を戻すとスマートフォンで誰かと話をしていた。
タカシロと目が合うと微笑みを返された。
「これが一連の流れです。先ほどもお伝えしましたが他者の命と、そしてこちらのスマートフォンの貸与に二千万、現金でのお支払いでお願いいたします。」
「私もあの怪物になり、妻を殺せということですか」
タカシロはその質問には答えない、先ほどと変わらない笑みを浮かべるのみだった。
妻の好美を救うためにササキはここにきた。しかし方法とは大金を払い、ササキ自身の手で妻を殺す手段だった。
「それではもう一度お話していただけますか?奥様をおかしいと感じてから今日私と会うまでにどのような出来事があったか」
タカシロは倒れた椅子を起こして座る。ササキは地面に手をついて跪いているような様子になっていた。
この時点で私の決断はすでに決められていたのかも知れない。
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