第4話 蒼眼の怪物

 二〇二四年七月一一日 一五時一〇分


 タカシロから突然オカルトじみた話をされたため、ササキは言葉の意味を理解するの数秒の時間を要した。

 「え・・・・命をいただくとは」

 「言葉の意味そのままに受け取ってください。私はその付箋に書かれた方の命を、貴方の指示で貰い受けます。」

 なんの言葉も出てこなかった。こんな宗教じみたような怪しい勧誘をされるとは思ってもみなかったからだ。

 タカシロという目の前の男に対する怒りよりも藁にでも縋る想いで掴んだ希望が霧散していくのを感じた。再び絶望の泥沼に浸かるような気分になっていく。

 「ササキさん、ササキさん、聞こえてますか、続けてよろしいですか?もし分からないこと気になることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。」

 放心状態だったササキをタカシロの声が現実に引き戻す。

 普通に考えればこんな怪しい話をされたら誰でも言葉に詰まるだろう。しかしこのタカシロという男はこちらの気持ちを察することはないようだった。

 「ああ、失礼ました。まず妻を救うのにどうして他者の命が必要なのですか」

 とりあえずササキは最後まで説明を聞くことにした。もはや怒りをぶつける気力も今の佐々木には残されていなかった。

 「もし気分が優れなければ遠慮なく仰ってくださいね、命はこれからお見せする器具に必要だからです。そしてもう一つがこちらになります。」

 タカシロはカバンから黒いスマートフォンを取り出した。

 「ササキさんには契約が完了しましたら左手首にQRコードの刺青を彫っていただきます。彫るといってもレーザーで皮膚に直接印字するだけですのでものの数分で完了します。それからこのスマートフォンで入れ墨を読み取っていただくと変身が完了します。」

 「契約?変身?タカシロさんさっきから貴方は何を言っているんですか?分かるよう」

 タカシロが右手を前に突き出しササキの言葉を静止する。右手はタカシロの口元で移動して人差し指を立てた。

 「もちろん、今ここで実演させていただきます。」

 タカシロは指をパチンと鳴らすと奥からこのカフェに到着した時に席へ案内してくれた若い男性の店員が近づいてきた。

 若い男はタカシロに断りもいれずに先ほどタカシロが出したスマートフォンを手にとり無言で左手首に彫られたQRコードを読み取った。

 「変身」

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