第5話 蒼眼の怪物2
男は一言呟く。彼を中心に強烈な熱波が発せられた。
熱波と共に暴風が吹き荒れ、カップが割れ、机が音をたてて倒れる。店内はガラス張りになっており外から中の様子が見える構造だった。それら全てが割れて轟音と共におおきく飛び散った。
ササキは近い距離で熱波を受けて思わず椅子もろとも後方に倒れて頭部を強打した。まわりの店員や客も含めて大きなパニックが起こった。まるで地震でも起きたような事態だ。
そんな中でもタカシロは涼しい顔をしている。決して慌てるようなことはなく、終始冷めた表情で眺めていた。
熱波が鎮まり机を盾にしてササキがゆっくりと起き上がると若い男の姿はなく、代わりに二メートル近くある白い体躯持つ異形の姿をした存在が姿を現した。
特に特徴的なのが青い大きな二つの複眼だった。全身が爬虫類のような湿っており光沢感を放っていた。身体中にムカデが這い回っているような、なんとも嫌悪感を掻き立てるような姿をしている。
この異常事態で店内の客と店員は全て外に避難したようだ。今残っているのはササキとタカシロと異形の化け物そして離れた席で独り言を呟いている少女がいるだけだった。
「あっくんさぁ、今日の夜はミイナ焼肉が食べたいなぁ、その後でヨガやって洗濯してそれから仕事にいくの。朝礼の準備があるからね」
話している内容は支離滅裂。一連の出来事で精神がおかしくなってしまったのだろうか、
「ササキさんよくあの少女を見ていてください。貴方の奥様もいずれああなりますよ。」
少女を席から体を左右に揺らしながらゆっくりと立ち上がる。この異常な空間がさらに非現実的なものへと変えていく。
「太一くん。ほら、君の大切な彼女が醜く堕ちていくよ。早く『救わないと』」
太一くんと呼ばれた白い異形の怪物はタカシロの言葉に小さく頷いた。
怪物は独り言を呟き続ける彼女に向けて歩き出した瞬間、今度は彼女から強烈な熱波が発せられた。
再び暴風でガラスやカップの破片が再度舞い上がった。ササキはとっさに顔を隠す。
熱波が収まり、顔を覆っていた両腕を下ろすと少女の姿が蜂の姿を模した怪物に変身を遂げていた。手が四本あり指の爪が針のように尖っている。全身が金属のような淡い光を放った。
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