第3話 多摩川粉砕殺人事件
三
二〇二四年七月一一日 一一時〇〇分
金田は露骨に嫌な表情をしてパトカーのドアを強引に閉めた。大きな音には金田の苛立ちがよく現れており、カナコはあまり刺激しないように「そうですね〜」と適当な相槌を打ちながらそっとドアを閉めた。
七月一八日、少しずつ陽射しが強くなってくる季節だが、今日は猛暑と言えるように日差しが強くカナコはハンカチで汗を拭う。この暑さのせいもあり金田の苛立ちに拍車をかけるのも理解はできる、しかしパトカーの中でひたすらに不機嫌な表情と態度を全面的に出すのはやめてもらいたいと思った。
報告によると今朝、多摩川の河川敷でバラバラ死体が発見されたというのだ。
ここ最近二三区で起きている連続殺人事件との手口が似ていることから渋谷警察署の凶悪犯罪を取り扱うカナコ達捜査一課が狩り出された。
カナコは今年の三月に配属されたばかりの新人であり、バディの金田は捜査が進展しないことでその苛立ちをカナコにネチネチとぶつけていた。
河川敷の急勾配を降りると現場は黄色のテープで一帯を仕切りられていた、報道のヘリを警戒してかブルーシートで覆い被されている。
「広いですね」
率直な感想をカナコはつぶやいた。
「殺されたのはホームレスの野郎でこのあたりは住所不定の奴らが集団で暮らしていたらしい、この広さを見ると村だなこりゃあ。くそっ公安も来てやがる」
ぶっきらぼうに金田が答える。
公安警察、国際問題やテロなどを取り扱う部署のため捜査の気密性高いのは仕方のないことだが理由も開示せず一方的に情報提供を求めるのは誰でも不快だ、以前に金田は説明した。
おそらく今出てきた仕立ての良いスーツをきた二人組の男達が公安なのだろう。二人共顔が真っ青だった。すれ違いざまにカナコは会釈したが相手からの反応はない。
警備についている警察官に手帳を見せてカナコ達はテープをくぐり中に入った。
その瞬間強烈な異臭がカナコの鼻を刺激した。マスクを取り出し装着するが気休めにしかならなかった。
奥に進むのと比例して足元に違和感を覚えた。緑が生い茂っているはずなのに所々赤黒く変色しているのだ。細かい粒状のものもある。
最悪の妄想が脳裏によぎるがカナコはあえて深く考えることをやめた。
「これは、また派手にやってくれたようだな、臭いがきつ過ぎる。」
金田が眉をひそめ、鼻を覆う。どんな死体を見ても表情を変えない男なのに。
「金ちゃんおつかれ、遅かったな」
先に到着していた鑑識の中島から声をかけられた。
「おつかれ、早朝から大変だな島さん、ところで害者はどこだい?」
金田と中島は同期という事もあり、気心がしれている仲なのだろう。中島が関わってる時はいち早く金田に情報をまわしてくれていた。
「今俺の足元にある肉塊と、飛び散った細かいものも含めるとここら一帯全部だよ」
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