第2話 私の親友
二
二〇二四年七月一七日 八時五〇分
「マシロおはよ~」
松本美亜は教室に入ると同じクラスの嶽本真白に挨拶をした。
家を慌てて出てきたためまだ頭が働かない。そのせいでミアの口調はゆっくりとしていた。
「おはよ、ミア、昨日も夜更かししてたんだ?」
嶽本真白は机の上につっぷすような形で眠っていた。身体はそのままに顔だけをミアに向ける。
「うん、なんか調べ始めたらとまらなくてさ」
ドサっと音を立ててミアは自分の机の上に鞄をおく。スマートフォンの時計をみると時間は八時五〇分、ホームルームの開始時間五分前だ。
「マシロはいつも早いね、何時に起きてるの?」
大きなあくびをしながらミアは言った。
マシロは高校一年の春頃から話すようになった。
彼女と出会ったのは忘れもしないミアが渋谷で暴漢達に絡まれていた時。
マシロは一言も発することなく暴漢達とミアの間に割って入りその細い腕で男の腕を捻りあげ、なぎ倒した。例え押し倒されても相手の首を獰猛に噛みつく様が脳裏に焼き付いて離れず心も奪われてしまった。その日以来ミアは彼女と積極的に関わるようになった。
当初は鬱陶しいという表情と態度をしていたが、諦めたのか表情に変化はないものの応えてくれるようになった。
彼女、嶽本真白は白く細い身体に銀髪のボブカットという誰もが目を惹く姿をしていた。おまけに目はアーモンドの形で鼻も整っている。非の打ちどころがない美少女だ。
しかし残念なことに彼女のその無愛想なコミュニケーションが全てを台無しにしていた。今では誰も彼女に話しかけようとはしない。
「だいたい六時くらいかな?で?今は何を追ってるの?」
ミアはマシロのから待ってましたと言わんばかりに両手をパンと叩いた。
SNSや動画などでトレンドに上がっている情報を分析し信憑性やそれに付随する新しい情報などを独自に集め、自分自身も動画配信を行なっている。チャンネル登録数も十万人を超えておりこのまま仕事にしてもいいのではと考えていた。
「そりゃあもちろん、今SNSで話題の謎のバイカーだよ。特撮ヒーローとか仮面の騎士とか地獄ライダーなんて盛り上がっててトレンド入りしてるんだよ。知らないの?」
ミアが興奮気味に話すと「へ~」というだけで起こしていた顔をまた机に突っ伏す、彼女は普段からリアクションがあまり大きくはないのでミアは気にすることなく話を続ける。
「今度この謎のヒーローについて動画あげようかな、でもなぁ、まだまだ情報も少ないし……どこから手を付けるべきか」
会話の内容の後半はほぼ独り言に近い。
「ミアは本当に好きなんだね、自分でもマメに配信してて私には無理」
マシロは自身の腕枕に突っ伏したまま会話を続ける。
「まぁね〜。マシロも一緒にやろうよ。美少女が増えて再生数も稼げる気がする!!!」
なんだかんだ、無視することはしない。そんなマシロとの希薄な関係をミアは楽しんでいた。
「私はいいよ。自分の私生活を他人に見せたくなんてないし、」
予想通りの回答。しかしこの程度で諦めるミアではなかった。
「それじゃあさ、こないだ見つけたスイーツのお店を一緒にいくのはどう?」
何がそれじゃあなのかとミア自身もおかしなことを言っていると自覚している。しかしマシロと交流を深めていく中で【甘い物には目がない】彼女にミアの要求をのませる方法は食事に誘うことが簡単。それが最初にミアが学んだことだ。
「いつのしようか、今週の金曜日なら空いてる。」
マシロは先ほどとは打って変わって上体を起こしミアの顔見て言った。真っ直ぐに見つめるその視線が自分に向けられたと思うと眠気など吹き飛んでしまう。
その日は予定が埋まっていたが、マシロとのスイーツデートを優先するために後ほどリスケする必要が出てきた。ミアは何よりもこの好奇心がそそられる存在との時間が楽しくて仕方ないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます