第30話 久しぶりの帰省

9月20日、土曜日。


昼間の熱気が少しずつ和らぐ中、俺は電車に揺られていた。


向かう先は、生まれ育った場所であるたつの市だ。


毎年10月の第2土日にある秋祭りの準備に、顔を出すため実家に帰る。


たった1日だけだが。


「中学時代にいじめられていたのに、よく帰ってくるな」と思う人もいるだろう。


でも、心配はいらない……。


秋祭りといっても各地区ごとに行われる。


幸い、俺をいじめていた連中とは地区が違う。


それに、今の俺を見せて、きっと腰を抜かすであろう彼らの顔を見てみたいという気持ちもある。


……もしかして、俺ってドSなのか?


そんなことを考えているうちに、最寄り駅の網干駅に到着した。


改札を抜けてロータリーに出ると、母親が車で迎えに来てくれていた。


「ただいま」


「おかえり。学校は楽しい?」


「うん、友達もたくさんできたし、すごく楽しいよ!バイトも始めたし」


そんな会話をしながら30分。


実家に着いた。


俺の家族は、父親、母親、父方の祖母、兄、妹の6人家族だ。


俺は3人兄弟の真ん中で、2つ上に兄が、5つ下に妹がいる。


特に兄弟喧嘩はしなかったが、かといって仲が良いというわけでもない。


家は、2つの家が通路で繋がっている二世帯住宅だ。


もともとあった祖父と祖母の家に、両親と俺たちが住むための新しい家を建てて繋げた。


そういえば、祖父は癌で亡くなったんだったな……。


今の時刻は14時37分。


祭りの準備は19時30分から。


「暇だなあ」


実家に帰っても、することがない。


スマホをいじるくらいだ。


すると、祖母が話しかけてきた。


「おかえり~。梨あるけど、食べる?」


俺は「食べる!」と元気よく答えた。


今家にいるのは、俺と母と祖母の3人だけだ。


父親は仕事、兄と妹は友達と出かけているらしい。


久しぶりに俺が帰ってきたというのに、兄と妹は遊びに行くのか……ありえないよな。


その後、母親に学校のことや一人暮らしについて話した。


近況報告が終わると、俺は昼寝をしていた。


目が覚めると、時刻は18時12分。


背伸びをして、大きくあくびをする。


そして、久しぶりに実家のご飯を食べた。


母親と祖母と三人で晩ご飯を囲む。


話に花が咲き、食事の時間よりも話す時間の方が長かった。


「俺、食べるの早いんだよな……」


たった5分で食べ終わってしまう。


早食いではなく、食べる量が少ないだけだ。


中学時代はよく食べていたが、ダイエットのために夜ご飯を豆腐だけにした結果、胃が小さくなってしまったらしい。


18時36分、外で車の音がした。


父親が帰ってきたようだ。


「ただいま。……髪切った?」


「おかえり。切ってないよ」


「そうか。……髪切った?……もうええ!」


うちの父親は、いつもこんな感じだ。


ボケているのではなく、わざとやっている。


周りからは「面白いお父さんだね」とか「羨ましい」と言われることもあった

が、息子である俺にとっては、正直恥ずかしい。


小学生の授業参観のとき、先生が「この問題わかる人?」と尋ねたら、父親が「はいはい!」と手を挙げたときは、本当に恥ずかしかった。


母親に「やめなさい!」と止められていたが、俺は他人のフリをした。


そんな父親なのだ。


時刻は19時20分。


祭りの準備開始まであと10分。


俺は公民館へ向かった。


徒歩3分ほどで着く。


公民館の2階に上がると、地元のおっちゃんたちが10人ほど集まっていた。


その中には、同級生と先輩が一人ずついた。


祭りの準備をしながら、みんなで談笑する。


21時まで続き、おっちゃんたちは酒を飲み、未成年の俺はジュースを飲みながら、おやつをつまんだ。


そんな何気無い1日を、実家で平和に過ごした。

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