第28話 一歩踏み出す勇気
海に行った翌週、俺と春原は、今度は三宮に買い物に来ていた。
春原は「佐伯くんの服を選んであげる!」と、やけに張り切っていた。
セレクトショップに入ると、先日の俺と同じように、春原も目を輝かせていた。
「佐伯くん、このパーカーとかどう?」
春原が勧めてくれるのは、俺がいつも着ているパーカーとは違う、少しだけデザイン性の高いものだった。
俺は、少しだけ戸惑ったが、春原が選んでくれたものなら、と試着室に向かう。
「うん、すごく似合ってるよ!」
春原が満面の笑顔で言ってくれた。
俺は、鏡に映った自分を見て、少しだけ自信が湧いてくるのを感じた。
その後も、春原は楽しそうに俺の服を選んでくれた。
「これとこれを合わせたら、絶対カッコいいって!」
彼女は、まるで自分のことのように、俺のコーディネートを楽しんでいた。
そして、その日、俺は生まれて初めて、パーカー以外の服を何着も買った。
買い物が終わった後、俺たちはカフェに入った。
「佐伯くん、なんだか前よりも、自信があるように見えるよ?」
春原が、そう言って微笑んだ。
「そうかな……」
俺は、少し照れくさくなった。
それは、春原がいてくれたから、手に入れた自信だった。
彼女と出会うまで、俺は自分の体型にコンプレックスを抱き、人目を避けて生きてきた。
でも、春原は気にすることなく、俺が「変わりたい」と願う気持ちを、いつも後押ししてくれた。
春原は、俺の人生にとって、なくてはならない存在になっていた。
この感情を、どう表現すればいいのか、俺にはまだ分からない。
でも、この気持ちを、俺は大切にしたいと思った。
夏休みも終わりに近づいた8月下旬。
春原から「ボーリングに行こう!」と誘われた。
「私、ボーリング苦手なんだよね。だから、佐伯くんに教えてもらいたいな!」
ボーリング場に着くと、春原は俺の隣で、不器用なフォームでボールを投げていた。
ガーターばかりで、なかなかピンが倒れない。
「あー!もうダメだ!」
春原が、そう言ってへなへなと座り込む。
俺は、彼女に優しく声をかけた。
「大丈夫だよ、次、頑張ろう」
俺がそう言うと、春原は嬉しそうに笑った。
俺は、彼女のフォームを修正してあげた。
そして、一緒に練習を繰り返すうちに、春原は少しずつ上達していった。
「やった!佐伯くん、見て!ピンが全部倒れた!」
春原は、そう言って飛び跳ねて喜んだ。
その笑顔は、俺の心を温かく満たしてくれた。
俺たちは、その後も、何ゲームかボーリングを楽しんだ。
帰り道、春原が言った。
「佐伯くんといると、本当に楽しいな。佐伯くんのおかげで、夏休み、最高の思い出ができたよ!」
俺は、その言葉に胸が熱くなった。
(……春原……凛……か)
俺は心の中で呟いた。
俺の、一人ぼっちだった夏休みが、春原のおかげで、こんなにも輝いている。
この夏、俺は、過去の自分と決別し、新しい一歩を踏み出す勇気をもらった。
そして、この勇気は、俺の人生を、もっと輝かせてくれるはずだ。
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