第27話 ふたりだけの夏休み

春原と課題に取り組んだ日から、3日が経った。


その内の2日間、春原は午前中は学校で補習を受け、午後からは俺の家で課題を進めていた。


そして、その翌日の朝、目覚まし時計をセットするのを忘れていたが、俺はいつもと同じ時間に目が覚めた。


カーテンを開けると、まぶしい太陽の光が部屋に差し込んでいる。


「さて、今日は何をするか……」


昨夜、春原にLINEで「補習の課題、終わったよ!」という報告とともに、お礼としてどこかへ出かけようと誘われた。


俺は二つ返事で快諾し、今日はどこに行こうか、話し合うことになっていた。


リビングのソファーに座り、スマホを手に取る。


『おはよー!今日はどこに行く?』


春原からのメッセージは、俺が送るよりも一足早かった。


『おはよう。どこがいいかな?』


そう返信すると、すぐに既読がつき、返信が来た。


『海とかどうかな?』


『海か……』


正直、海は苦手だった。


中学時代に太っていた頃、海に行ったことなど一度もなかった。


海水浴場で見かける楽しそうな人々の輪に、自分が入ることはないと思っていた。


『佐伯くん、海は苦手?』


春原は、俺の返信から何かを察したようだった。


『ううん、そんなことないよ。大丈夫!行こうか』


『やった!じゃあ、午後からにしようか』


『うん、分かった』


俺は、少しだけ緊張しながら、海に行く準備を始めた。


午後に待ち合わせ場所で春原と合流し、電車に乗り、須磨海岸へと向かった。


駅に着くと、人混みで溢れていた。


楽しそうに笑い合うカップルや、友達同士で写真を撮る人たち。


俺は、この光景を見て、また中学時代の自分を思い出してしまった。


「佐伯くん!こっちだよ!」


春原の声にハッとして、彼女の元へと駆け寄る。


春原は、白いTシャツにショートパンツというシンプルな格好だった。


その姿を見て、俺はまた少しだけ、胸が高鳴るのを感じた。


「佐伯くん、泳がないの?」


春原は、俺がTシャツを脱がないでいるのを見て、不思議そうに尋ねた。


「俺はいいよ。荷物番しておくから」


「えー、つまんないよ!せっかく海に来たんだから、泳ごうよ!」


そう言って、春原は俺の手を引っ張り、海へと誘った。


「ちょっと、待ってよ!」


俺は、抵抗することなく、彼女に手を引かれるまま海に入っていった。


海の水は、思っていたよりも温かかった。


春原は、まるで子どもみたいに、はしゃいでいた。


「佐伯くん、見て!クラゲがいるよ!」


「えー、大丈夫なの?」


俺は少し心配になったが、春原は気にせず楽しそうに笑っていた。


彼女が楽しそうで、俺もだんだんと楽しくなってきた。


「佐伯くん!水かけっこしよ!」


そう言って、春原は俺に水をかけてきた。


俺は、驚きながらも、応戦した。


俺たちの笑い声が、夏の海に響き渡った。


その日、俺は初めて、誰かと海で遊ぶ楽しさを知った。


それは、中学時代に想像していたよりも、ずっと楽しくて、温かい時間だった。


俺は、春原と一緒にいられたことに、心から感謝した。

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