第18話 初めてのプレゼント
カラオケルームの賑やかな雰囲気から逃れるように、俺はふらりと席を立った。
少し休憩したくて、トイレに向かう。
「この雰囲気……慣れないな……」
思わず口からこぼれた呟きは、誰にも聞かれずに消えるはずだった。
しかし、トイレのドアを開け、出た瞬間、目の前に春原が立っていた。
「えっと……どうしたんですか?」
不審に思い尋ねると、春原は少し困ったように笑った。
「いや……佐伯くん、このまま帰っちゃうんじゃないかなーって思って、ついて来ちゃった」
「さすがに、そんな心配されるようなことはしないよ……」
その言葉に、春原はパッと表情を明るくした。
「それじゃあ!せっかくだし、他の所に行こ?ここ、カラオケだけじゃなくて、ボーリングやゲームセンターとかもあるよ!」
ゲームセンター、という言葉に俺は思わず反応した。
そのことに気づいたのか、春原はニッと笑って尋ねてくる。
「気になるなら、一緒に行こ?」
俺は二つ返事で頷いた。
もちろん、行きたい。
エレベーターに乗り込み、ゲームセンターの階に降り立つ。
いざ来てはみたものの、少し罪悪感が湧いてきた。
みんなに黙って来てよかったんだろうか?
「大丈夫、大丈夫!」
俺の不安を察したのか、春原は軽く手を振って笑った。
その屈託のない笑顔に、俺は信じることにした。
ゲームセンターの中を歩きながら、春原が俺に問いかける。
「佐伯くんって、よくゲームセンターに来るの?」
「まぁ、うん。よく行くよ」
「へえ、どんなのが得意なの?」
「王道のUFOキャッチャーかな?特に、ぬいぐるみ系とか……」
「そうなんだ!」
少し意外そうに目を丸くする春原に、俺はつい言ってしまった。
「えっと……何か取って欲しいのある?」
「えっ!私が選んでもいいの?」
春原は心底嬉しそうな顔で、目を輝かせた。
「うん、いいよ」
俺の返事に、春原は「どれにしようかな〜」と真剣な表情で店内を歩き回る。
そして、一つのUFOキャッチャーの前で足を止めた。
春原が選んだのは、手のひらサイズの小さなネコのぬいぐるみだった。
「これなら、取れそう……」
そう呟いて、クレーンを操作する。
3回目で、ネコは無事アームに掴まれ、落下口にコロンと落ちた。
「はい、どうぞ……」
俺は取ったばかりのネコのぬいぐるみを春原に渡す。
春原は少し躊躇いがちにそれを受け取った。
「……本当に貰ってもいいの?」
「うん、俺は取るのが好きなだけだから……。それに、家にたくさんあるし……」
「ありがとう!大事にするね!!」
両手で大事そうにぬいぐるみを持つ春原は、心から嬉しそうだ。
「そんな……大げさに言わなくても……」
「ううん、佐伯くんから初めてのプレゼントだもん」
春原は満面の笑みで、そう答えた。
俺たちがUFOキャッチャーで盛り上がっていると、突然背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「やっと見つけた。2人ともここにいたのか?」
振り返ると、そこには佐藤が腕組みをして立っていた。
表情は少し呆れているように見える。
「2人ともLINEしても、既読つかねぇし、電話しても繋がらないし……」
俺は春原と顔を見合わせ、「ごめん」と頭を下げた。
春原は「全然、気付かなかった……」と申し訳なさそうに言った。
その声に続いて、昭彦も現れた。
「もうカラオケ終わったの?」
春原が尋ねると、昭彦は「まぁ、歌い疲れたし」と笑った。
「で、今度はボーリングに行こうと思ってるんだけど、2人も来る?」
その言葉に、俺と春原は同時に「行く!」と答えた。
すると、由香里が隣で小さく笑う。
「いや、タイミングと台詞がまったく同じじゃん」
その言葉に、俺と春原は顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
みんなと合流できて、賑やかな時間がまた始まる。
なんだか少し、ホッとした気持ちになった。
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