第10話 新しい仕事

ローソンの裏口から、俺は緊張しながら奥の部屋へと入った。


店長に「明日から」と言われ、少し戸惑いはしたが、新しい一歩を踏み出すことに胸の高鳴りを感じていた。


佐伯さえきくん、今日からよろしくね」


にこやかな店長の言葉に、俺は深く頭を下げた。


「はい!精一杯頑張ります!」


返事だけは自信満々だったが、いざ制服に着替えると、心臓はバクバクと音を立て始める。


「じゃあ、まずはレジの使い方から教えるわね」


レジカウンターに立ち、目の前の機械をじっと見つめる。


今まで客としてしか見たことのないレジが、今は自分を試す舞台のように思えた。


店長は一つずつ、丁寧に教えてくれた。


「これは商品のバーコードを読み取るスキャナー。これがお客様からお金をいただくドロワーね」


「はい」


店長は実際にバーコードをスキャンし、画面に表示される金額や操作方法を説明してくれる。


俺は必死にメモを取りながら、その動きを目に焼き付けた。


「じゃあ、一度やってみましょうか」


「は、はい!」


俺はぎこちなくバーコードをスキャンする。


ピッという音が鳴り、画面に商品名と金額が表示された。


「お会計は〇〇円になります」


口に出してみると、自分の声がなんだか遠く聞こえる。


「はい、お預かりします」


店長が模擬のお札を渡してくれ、俺はそれをドロワーに入れる。


「レジはお金の間違いがないように、きちんと確認することが大切よ。最初はゆっくりでいいからね」


レジの操作は思った以上に複雑で、何度も操作を間違えそうになったが、店長は焦らせることなく、優しく見守ってくれた。


レジの次は、商品の品出しだ。


「この段ボールの中に入っている商品、全部出して並べてみて」


俺は店長に言われた通り、段ボールの中のパンを陳列棚に並べていく。


しかし、きれいに並べるのは難しく、少しでもずれると気になってしまう。


「佐伯くん、几帳面なのね」


店長は俺の様子を見て、くすっと笑った。


「そう、パンを陳列する時は、新しいものを奥に、手前に日付が近いものを出すのが基本よ。お客さんが取りやすいように、きちんと並べることが大切だから」


俺は店長のアドバイスを聞きながら、一つ一つ丁寧にパンを並べ直していった。少しずつ形になっていく陳列棚を見て、ようやく少しだけホッとした。


時計を見ると、もう17時30分。


あっという間に時間が過ぎていた。


「今日はこれで終わり。お疲れ様」


「ありがとうございました!」


俺は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


バイトを終え、へとへとになりながらも、心の中には不思議な達成感が満ちていた。


(バイト、楽しいかもしれないな)


人と関わるのが苦手だと思っていたが、店長と話したり、商品を並べたりするうちに、少しだけ人と向き合えたような気がした。

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