第8話 磁石のような二人

午後13時34分。


そういえば、言い忘れていたな。


俺は、1年D組だ。


ちなみに1年はA組からE組まである。


昼休みが終わり、体操服に着替えてグランドにクラス全員で集まった。


入学して1週間も経てば、仲のいいグループがいくつかできあがる。


俺は、どのグループにも所属していないけれど……正直に言うと、羨ましいと感じる。


俺だって青春がしたい!

仲のいい友達がほしい!


でも、どうすればいいのか分からないんだ。


強いて言えば、まともに会話したのは、春原すのはらくらいだ。


その春原は、副委員長の佐藤さとうと保健委員の女子と楽しそうに話していた。


昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響き、ひびき先生が「それじゃあ、始めるわよ~。まずはチーム決めね!」と言った。


副委員長の佐藤が、みんなに問いかける。


「とりあえず、早くするんだったら、男女で別れるか……もしくは、適当に分かれるか……どうする?」


話し合った結果、男子対女子の対決に決まった。


男子11名、女子11名だったので、全員参加となった。


種目はサッカー。やったことはない。


ルールは知っているが……適当にやるか!うん、真面目にやってるフリをして、適当にやろう。


試合が始まると、現サッカー部や元サッカー部だった奴らが、やけにやる気満々で張り切っていた。


中学の時と違って、非難したり喧嘩したりがないだけ、全然マシだ。


その時、春原が俺に声をかけてきた。


「運動得意?」


「普通……かな?それより、サボってると思われない?」


「大丈夫、大丈夫!サッカーだから、マークしてるって言えばいいし。それに、目的は勝ち負けじゃなくて、親睦を深めることだから。」


「確かに……それも、そうか……」


と納得していると、女子がボールを蹴りながらこっちに向かってきた。


その後ろを男子が追いかけている。


「お!えっと、佐伯、頼む。止めてくれ!」


「止めてくれと言われても……」


「いける!外したら、春原さんお願い!!」


勢いの強いボールが、まっすぐ俺たちに向かってくる。


その進路には春原が立っていた。


「え!わっ私!!」


俺は反射的に、春原とボールの間に入り込んだ。


ボールはたまたま俺の膝に当たり、跳ね返った。


痛ってーー!!


跳ね返ったボールはカーブし、たまたま味方のサッカー部がいる方へと向かっていった。


俺としては、まったく狙ったわけではなかったけれど、他の男子からは「ナイスパス!」と言われた。


そのサッカー部の子は、相手のゴールへとボールを蹴りながら走り出した。


俺は冷静を装っているが、膝がものすごく痛い。


春原が、駆け寄ってきた。


「ありがとう、佐伯くん……大丈夫?」


「……全然、大丈夫。」


「そう、よかった~。すごいね、さっきのパス。もしかして、本当は経験者だった?」


「いや、初心者だよ。さっきのは偶然。」


こうして俺は、春原の話し相手をしつつ、膝の痛みに耐えた。


結局、この試合は男子の勝利で幕を閉じた。


男子は教室で、女子は女子更衣室にそれぞれ制服に着替えるために移動した。


着替え中に副委員長の佐藤から、「すごいパスだったね!」と言われ、周りの男子も集まってきて「ナイスパス!」と褒められた。


何度も言うが、あれは偶然だ。


「いや、たまたまだよ。」


そう答えると、「そんな謙遜するなよ。なぁ、サッカー部に入らねぇ?」と誘われたが、俺は断った。


こうして、6時間目の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。


そして、放課後のホームルームが終わり、クラスメイトが帰り支度を始める中、響先生に「佐伯くん、ちょっと待って~。」と声をかけられた。


「これ、アルバイトの申請書よ。前にも話したけど、もしするなら早めにね。」と申請書を渡された。


俺は「はい」と答え、膝の痛みをこらえながら保健室へと向かった。


このまま家に帰った方が早いだろうと思うかもしれないが、家に手当てする道具がないのだ。


それにどうすればいいのかも分からない。


結論、保健の先生に手当てしてもらうのが一番だ!


足の痛みを我慢しながら歩くこと5分……あれ?保健室ってどこだっけ?


そう、俺はこう見えて方向音痴でもあるんだ。


俺のいい所って、どこなんだろう?


さらに3分ほど歩き、やっと保健室を見つけた。


勇気を出して中に入ると、同じクラスの保健委員の女子がいた。


「確か、佐伯だっけ?……何か用?」


「膝が……痛くなってきたから、冷やそうかと……」


「膝?ああ、サッカーの時の……やっぱり痛かったんだ。りんには『大丈夫』って強がってたんでしょ。」


「……そうだね」


彼女は氷と水を入れた袋を差し出してくれた。


「はい、これで冷やして。」


「ありがとう……ございます」


俺は左足のズボンをまくり、膝に袋を直接当てて冷やす。


うわー、ごっつい腫れてるじゃん。


そう思っていると、彼女が話しかけてきた。


「ねぇ?凛から聞いたんだけどさ、名前を覚えるのが苦手なんだって?」


「……うん。」


やばい、この展開は「私の名前は?」と聞かれたら終わりだ。


「ちなみに、私は藤原由香里ふじわら ゆかりね。覚えてもらえないだろうけど。……それって、言い方が悪いけど、人に興味がないって言ってるようなもんじゃん」


……違う!違うんだ!興味はある、怖いんだ、トラウマなんだよ!


「何も言い返さないってことは、そういうこと?そんな気持ちで、凛と関わってほしくないんだけど……」


「ち、違うよ……人に興味がないんじゃない。怖いんだ、人の名前を覚えるのが……」


「どういうこと?」


「……」


俺は思い詰めた表情をしていたのだろうか。彼女は何かを察したようだった。


「そう、何か訳ありみたいね。疑ってごめんね。」


「いや、別に……」


その時、ドアが勢いよく開いた。


「失礼しまーす。暇だから遊びに来たよ~」


春原が入ってきて、俺の膝に視線を向けた。


「え!その膝、全然大丈夫じゃないじゃん!」


「いや……大げさすぎるよ」


俺がそう言うと、彼女は「大げさじゃないよ!赤く腫れてる!もっと強く当ててよ!」と言って、俺の手の上に手を乗せ、力強く押した。


「ちょ、冷たすぎる!!」


「我慢してよ!男でしょ!!」


すると、保健委員の女子が笑った。


「あんたら……仲良いよね。しかも最近ずっと一緒にいるよね?磁石みたい……」


「ちょっと、由香里ゆかり!磁石って、もーからかわないでよ。」


「磁石……」


俺は呟いた。


確かに、そう……かもしれない。

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