第13話 罪の所在は誰に?

記者団からの質問タイムも終わり、これで解散と思われたところ講師陣の後ろからスクリーンが降りてくる。

それに気づいた記者団はカメラを向ける。

スクリーンが急に降りてきたことに学園長と教頭は何事かと驚いていたが一方、筑紫先生はマイクを取り立ち上がる。


「皆様、これからお話させていただくに限り、皆様によく聞いて欲しいことがあります」


その場にいた全員が筑紫先生に集中する。


「筑紫先生、一体これから何をするつもりなのですか?」


隣にいた教頭が小声で筑紫先生に問う。


「これからやることは生徒たちを守る行動であると思っております」

「しかし予定にないことをしてもらっては困ります」


それもそのはずだ。これは急遽ついさっき準備が整ったばかりなのだから。

しかしそれこそがこの場のピークなのだ。

そんな思惑をつゆ知らず筑紫は凰介の台本を信じ、教頭に願い入れる。


「これは生徒たちの為なのです。どうかそこをどうか」

「しかし……」


教頭も筑紫先生が教師として生徒たちのことを大切に思っている素晴らしい教師であることは知っている。だが教頭としては余計なことをされて更なる問題が発生することは了承しかねる。


「もし何かあったら私が責任を…」

「いえ、私が取りましょう」


筑紫先生が言いかけたところ学園長が自分が責任を取ると言い出した。


「学園長!ほんとによろしいのですか!?」

「私ももう老い先短い。最後まで教師としての信念を貫き通したい。筑紫君、後は頼みましたよ」

「……はい!」


背中を押してくれる恩師の言葉に筑紫先生は前を向く。


「それではまず、こちらの映像をご覧ください」


室内の電気が消え、スクリーンに映像が映し出される。


「おいあれって!」

「なんでこんなのが!?」


会場全体がまたどよめく。

スクリーンに映された映像は月和の家を取り囲み、玄関の前で待ち構え、家の中の人に声をかけ続ける記者の山だった。

そこから早送りで映像は流され、ある一定のタイミングで記者の山は雪崩の様に家から離れていった。

そこで映像は終わり、会場の明かりがつく。


「今皆様に観ていただいたのは30分前までの該当生徒の御家庭に詰め寄る皆様の同僚のお姿です」


スクリーンが上がり筑紫先生が彼らにお願いする。


「精神が傷つき、消耗し、不安や恐怖、悲観的な想像に囚われやすい人間に対して大勢の大人が大声で家の前に待ち構えている状況。その上、今まで献身的に看病をしてくれた人が自分のせいで要らぬ憶測のせいで不名誉かつ嫌なレッテルを貼られたらどうなると思いますか?」


記者たちは何も言えず黙りこくる。

筑紫先生の言葉を聞いて記者たちが黙ってるのは2択の理由があるからだ。

一つは罪悪感の自覚によるダンマリ。

比較的に若い新人たちが多い。

もう一つがここで発言した場合の立場の悪化を理解しているからだ。

これは主にベテラン陣が多い。

そしてそれは本部にも伝わっている。

この会見はライブ中継されている。

そんな状況を静観など本部からしたら出来たものではない。

記者たちのスマホには既に大量の着信が届いているが誰も手を取らない。

誰も動きたくないのだ。この状況を動かしたくない。保守的な日本人の気質ともいえるその行動。

それでも筑紫は話を続ける。


「もちろん今回の件を皆様に責任転嫁するつもりはありません。しかし、知らなかったから関係ないは許されないのです。皆様には世間に情報を届ける義務がある。ですがそれによって命が失われることだってあるのです。この学園にはそうやって辛い思いをして夢を諦める子だって沢山いるんです。我が校だけじゃありません。いくつもの未来ある人たちがそういう目にあっているのが現状です。だからお願い致します。今後はこの様な生徒個人への過度な取材はやめて頂きたい!もし反すればそれなりの処置を検討させて頂きます」


そもそも、この記者会見が開かれたキッカケは一つの小さな記事だ。

それは引退したばかりの青春ヶ丘学園、アイドル部の夜忍月和が同じ学校の生徒と親密な関係であるというものだった。

もちろん月和と凰介はそんないやらしい関係ではない

だが無駄に向上心が高く、頑固で、成功し続けてしまった男はより面白くしようと記事を書いた。

そしてそれはこのネット社会という拡散力が一秒でウン万件と広がる時代、30分もあれば多くの人間の目に入る。

それにより世間から注目を集めてしまい今回の会見が行われたのだ。

それが己自身の首を絞めているとも知らず。



***


『月和さん。教師として、顧問として、一人の大人として不甲斐ないばかりと思っているわ。本当にごめんなさい。それでも私にとって貴方は掛け替えのない生徒なの。だから今度もし良かったら貴方の歌をまた聴かせてくれないかしら?貴方の一ファンとして。またね、月和ちゃん』

「だとよ。良い教師に恵まれたな」

「・・・・・・ゔん」


凰介は録音を止める。

月和は病院のベットの上で布団を握りしめ、涙を流す。


「公人は影響力を持ち、晒される立場である。現役アイドルが異性を家に招く。それはアイドルとしてどうなのか?まったく、それ以前にまだ15歳の少女だというのに」


凰介は椅子に座り彼女の記事に書かれてるコメントを読みながら自身の考えを口にする。

それを聞いて月和は少し頬を上げたがすぐに申し訳なさそうに謝罪を口にする。


「ごめんなさい。私のせいで・・・」


目が覚めてから彼女はずっと謝罪をしている。

それに凰介は嫌な顔をして答える。


「うざったらしいな。俺は謝罪が嫌いだ。それで、これからどうするつもりだ?」


こんなことになったらテレビ業界、アイドル業界への復帰は絶望的だ。


「・・・・・・わからない。今まで、お母さんみたいなアイドルになることを目指してたから。・・・ごめんなさい。あんなに色々看てもらったのに・・・」

「そんなことだってある。運も実力の内、それに見放されればどんな努力も結果には反映されない。それが現実、お前の見ている世界が物語ではない証明だ。お前はよくやった」

「うん・・・・・・ほんとうに、ありがとう。もう何もかも失っちゃったし、女の子らしく家事スキルでもあげようかしら・・・・・・」


凰介は顔を合わせず、その励ましに月和は凰介を見て乾いた笑みを浮かべる。


「まぁ、これが全て、偶然ならの話だがな?」

「・・・え?」


その言葉に月和は一瞬呆気を取られる。

だがそれ以上に身体が鳥肌に襲われた。

その感覚は怪談を聞かされ、夜中暗い部屋の中で誰かに見られてるような視線を感じ布団を被り震えるような感覚だった。


「疑問に思わなかったのか?3年もの間活動している間に色々と問題はあった。なのになぜ今回だけこうも騒ぎ立てられているのか?そして思わないか?この謎の違和感に?」

「・・・・・・!?」


そう言われて月和は初めて気づく。

記者団の察知の良さ、学校側の対応の速さ。

何より、目の前にいる一人の男の異様な程の落ち着きよう。

目の前に自殺未遂をした人間がいるのに余りにも淡々とし過ぎている。

まるで最初から知っていたように。


「全てを失ったのなら丁度良い」


影は立ち上がる。

カーテンから漏れる薄暗い日の光によってまるで炎のように揺らめく。

黄色の目がこちらを見つめて目が離せない。


「なんであろうと、何かを失って、そこで初めて何かを手に入れる権利を得られる」


その影は次第に私の目の前で立ち止まる。


「ここがお前の、ターニングポイントだ」


ほくそ笑むその姿はまるで悪魔そのものだった。


「終幕とは新章の開幕と同義。さぁ、序章の幕を閉じ、真なる物語の幕を開こう」

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