第2.5話 レギアレン帝国の企み
――???視点(三人称)――
ラフィニアがアシュの居る廃教会へと訪れる、その少し前の頃――。
陽が昇り、朝モヤがオレンジ色に染まっている時間。
とある砦の一角にある小さな部屋に黒衣に身を包んだ男たちが静かに
ここはレギアレン帝国の南端、エレレート聖国との国境に近い場所だ。
この頑強な石造りの砦の中で、諜報を生業とする帝国兵が任務の進捗を報告し合っていた。
「
「はっ! ほぼ準備は完了。すでに国境付近の森にて待機させてあります!」
報告の声を上げるのは黒いローブを目深に被った男。周囲には同じ装いの兵士が四人テーブル囲んでいる。
そして一人だけ椅子に座り、耳を傾ける男がいる。彼が現場指揮官だろう。
フードを取り去った顔には大きな古傷がはしり、歴戦を生き抜いて来た熟練の兵士であることが窺える。
「例の羊皮紙の仕込みは上手く行ったのか?」
「ルース村の娘が封印の手掛かりを探していた為、手渡した――と偽装した兵からの報告が上がっています」
「なるほど。その娘の追跡はどうなってる?」
「それが、森に入った所までは追えたのですが……」
部下の男が言い淀む。指揮官の視線が鋭く光り「続きを」と促している。
「何でも、森に入るとすぐに方向感覚を失う、との報告が……」
「方向感覚を失う……? それは悪魔の仕業か、それとも先代の聖女が残した妨害魔法の類か?」
「聖教会内の諜報員の報告では、後者の可能性が高いそうです」
「そう簡単には接触すら出来ん、か……」
指揮官が苛立たし気に腕を組み直すと、部下の男たちは息をのむ。
「では当初の予定通り
「「はっ!」」
男たちの一糸乱れぬ返答が返る。それを満足そうに見て頷いた指揮官は、更に言葉続けた。
「群体は”聖女ソフィア”に駆逐されるだろう。だが、かの悪魔を捕獲する事が最大目標だ。困難なら、所在だけでも掴め」
「指揮官、発言してもよろしいでしょうか?」
「許可する。話せ」
「群体の力なら、聖女ごときに後れを取らないのでは? 村ごと討つことも――」
「たしかお前は、まだ若かったな?」
指揮官の問いがソフィア打倒を進言する男の言葉を遮る。その一言でこの場に居る全員の顔が青ざめた。
「は、はい! 今年で26になりました!」
「なら知らぬのも無理はない。あの聖女が、帝国の勇者二人を単独で
「は? あの”四方の勇者”二人を……ですか!?」
「そうだ。魔物の群れごときであの女を倒せると思うな……」
「……失礼いたしました」
指揮官の男が「構わん」と頷くと、張り詰めていた緊張がわずかに解れる。
だが、テーブルの上にある地図へと指揮官の鋭い視線が注がれる。
それが再び場の空気を引き締めさせた。
「待て……。あの森に入ると、方向感覚を失う……と言ったな?」
「は、はい。その様に報告を受けております……」
「では、その羊皮紙を受け取った娘は? なぜ普通に森へ入れた?」
「――っ!」
その場の全員が息をのみ、指揮官の指摘に戦慄を覚える。
「まさか、その娘は悪魔と契約を?」
「いや、封印は契約なども阻むらしい。つまり、その娘自体に何かがありそうだ」
「何か、とは?」
「……まだ言えん。だが、ワシの推測通りなら、我々の最優先事項はその娘の身柄確保に変わるだろう」
指揮官の言葉に「ただの村娘ではない?」「まさか一級監視か?」と室内が一気にざわめき立った。
「現場の諜報員に通達せよ。『羊皮紙を受け取った娘も”一級監視対象”にする』と」
「「は! 了解であります!」」
男たちの返答は乱れる事なく発せられた。
こうして、アシュとラフィニアの預かり知らぬ所で、帝国の暗躍は着実に、そして容赦なく加速していくのだった――――。
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