数学と意識が交錯する、切ないSF愛の物語
- ★★★ Excellent!!!
序章〜1章を読んで
物語は静謐で、しかし重力のように読者を引き込む。主人公カイの主観的時間は、愛するリナの精神崩壊を契機に凍結し、客観世界の流れとの対比によって、時間そのものの相対性を巧みに示している。
リナという人物の描写は、天才数学者でありながらも人間的な愛情と好奇心に満ち、科学的思考と感情の交差点が精緻に表現される。日常的な大学生活や議論、街路の景色までもが、科学と詩的感覚の両面から描かれ、読者は彼女の知性と美を追体験するような感覚に陥る。
悲劇の描写もまた冷静で、過剰な感傷に流れず、医学的説明と主人公の洞察が交錯することで、理知的な悲しみが積み重なる。ラストの方程式や意識の定量化というSF的要素は、単なる装置ではなく、物語全体のテーマである「理解と存在の変容」を体現している。
全体として、論理的でありながら詩的な筆致、科学と愛、理性と感情の交差が絶妙に融合した短編であり、SF愛好者だけでなく、人間心理や存在の根源に興味を持つ読者にも深い印象を残す作品である。