【SF短編小説】無限の向こうで君を待つ ~宇宙の数学詩が響く時~(約10,000字)

藍埜佑(あいのたすく)

序文:永遠に凍りついた瞬間

 これは私が理解という概念そのものを出来事の記録である。そして、一人の女性を狂おしいほどに愛した私の魂の遍歴の記録でもある。


 彼女を失ったあの日から、私の時間は止まっていた。


 いや、正確に言えば時間は客観的には流れ続けていた。だが私の主観的な時間は、彼女が沈黙したあの瞬間に永遠に凍りついてしまったのだ。


 科学者として私は、この宇宙のあらゆる事象は観測され、記述され、そして最終的には理解可能であると信じていた。


 量子力学の不確定性原理でさえ、ハイゼンベルクが数式で美しく記述したではないか。DNA の二重螺旋構造も、ワトソンとクリックが X 線結晶学のデータから解明した。人間の脳でさえ、1000億個のニューロンが織りなす壮大な情報処理システムとして理解できるはずだった。


 だが彼女の身に起きた出来事は、私のその傲慢な信仰を根底から覆した。


 理解とは何だったのだろう。

 愛とは何だったのだろう。


 そして彼女が最後に見つけ出したあの恐ろしくも美しい方程式の本当の意味は何だったのだろう。


 この記録を読む未来のあなたへ。


 もしあなたがこの文章を本当に理解できたなら、その時あなたはもう以前のあなたではないはずだ。なぜなら真の理解とは知識の獲得ではない。


 


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