第10話 リリカちゃんへ愛を充電
人質だった子を家に送り届けると、私達はカナと合流して、宿を探した。
カナがすぐに宿を見つけてくれたおかげで、私たちは少し早めに休むことができた。
「傷を見せてみて」
私はリリカちゃんの服をたくし上げて、殴られていた箇所を確認した。
「あっ、ちょっ、ロザ姉ったら! 恥ずかしいよう!」
「……ハァ。私は外しますね」
リリカの反応を見てため息を吐くと、カナは部屋の外へと出ていった。
「見たところ問題無さそうだけど、大事を取って今日はベッドに寝ておきなさい?」
「でも……」
「食事は私とカナちゃんで用意してあげるから。ほら、横になりなさい」
「……うん」
「ねぇリリカちゃん。どうしたの? 元気が無いじゃない?」
あの裏路地から出てきてから、リリカはずっと口数が少なかった。そんなリリカの様子が気になっていた私は、カナがいなくなった今、率直に聞いてみることにした。
「え? 別にアタシはフツーだよ。全然いつものリリカっしょ?」
リリカはシーツを身体にかけて横になりながら、そう答えた。
「全然、『いつものリリカ』じゃないわ」
「いつものリリカって?」
「そうねぇ……無邪気ではつらつとしてて、好奇心いっぱいの、可愛い女の子?」
「そっか……」
率直に気持ちを伝えたけど、リリカは相変わらずの調子だった。
私は少しリリカに寄り添って、その手を取って尋ねる。
「リリカちゃんがいなかったら、あの子は今ごろアリアちゃんみたいに、瘴気に侵食されていたわ。だから、自信を持って?」
そう言うと、リリカは泣きそうな顔をして、瞳を潤ませて涙を貯めた。
「アタシ、何もできなかった。ロザ姉を守らなきゃいけないのに!」
「大丈夫よ、私は」
「何にもできなかった! 役立たずだよ! アイツだってそう思ってるもん! ごめんなさい……アタシ、ロザ姉の役に立ちたいのに。何にもできないんだよ……」
「リリカちゃん……」
「アタシ、ほんとはそんなに強くないんだ。ロザ姉に出会ってから、別人みたいに強くなった気がしたけど、気のせいだった」
リリカは手を振りほどいて、横になったまま向こう側を向いてしまった。これは重傷ね。
「ロザ姉に戦わせるなんて。でもロザ姉は強くて。じゃあ、アタシって何なの? もういらない子? カナは……私より色々なことができる。すごい子だよ。だからアタシは……アタシは」
リリカちゃんは人質を取られて、何もできなかったことを悔しく感じているみたい。そんなの普通のことだし、リリカちゃんが悪いことじゃないのにね。
それに、カナちゃんにも劣等感を覚えている……のかしら。
やっぱり、ここは聖女らしくリリカちゃんの心に寄り添わなくっちゃね。
「えっ。ロザ姉!?」
私はシーツを上げると、リリカちゃんのすぐ横に潜り込んで、横になった。
相手が取り乱している時には、抱擁すれば落ち着いてくれると確か聖女の教えにもあったわね。
だからシーツの中で、後ろからリリカちゃんをそっと抱きしめた。
「人質を取られて動けなくなっちゃうのは、リリカちゃんがちゃんと相手のことを考えているからよ。それは立派な事なんだから、胸を張って?」
「う、うん。胸? ロザ姉の柔らかいのが、せ背中に当たって? な、なに? 人質?」
「ちょっと、聞いてるの? 真面目な話よ?」
「ひゃっ! だって息が、首筋に当たって、ひぁぅ」
「こら。暴れないの」
身をよじるリリカちゃんを押さえつけるように、私は後ろからさらに強く抱きしめた。
「うう、こんなのヤバいよ……気を失っちゃう……」
「あなたのおかげで、あの子は助かったの。だから自信を持って?」
「……ほんと?」
リリカちゃんは少しだけ落ち着いたようで、抱きついた私の腕にそっと手を添えた。
「アタシのこと、邪魔じゃない?」
「当たり前じゃない」
「弱くても?」
「あなたは強いわ。でも弱くたっていいのよ。ただ傍にいてくれれば、それだけで心強いの」
「でも、傍に居るだけじゃ、アタシ役に立てないよ……」
「リリカちゃんが傍にいると、私も元気になれるわ。でも元気が無い時も……ふふ、それはそれで可愛いから、お得な気分ね」
「そ、そんなのズルい。じゃあ……ほんとに……どんなアタシでも、傍にいていいんだ」
「今さら気づいたの? お馬鹿さん」
「ふふっ……アタシってお馬鹿さんなんだよ。でも、そんなアタシだけど……ロザ姉の側にいる。うん、そうする!」
リリカちゃんは少しだけ元気になったみたい。
しばらくそのまま目を閉じて、静かに腕の中に抱かれていた。
リリカちゃんにも納得してもらえたし、私もさすがに聖女らしい振る舞いが板について来たわね。全く、こんな優等生を追放するなんて、聖女の里はどうかしているわ。
それにしても、リリカちゃんが私と会ってから急に強くなったと言っていたけど。そんなことって普通に考えて、あり得るのかしら。
……気が付けば、よっぽど心労がかかっていたのか、リリカちゃんは静かに寝息を立て始めた。
私は起こさないようにそっとベッドを抜け出して、リリカちゃんにシーツを掛け直してから、部屋の外へと出た。
「盗み聞きは感心しないわよ?」
部屋を出てすぐのところで、壁に背を向けて、綺麗な姿勢な待機していたカナちゃんに、私はそう声を掛けた。
「あなたを守ると決めましたので」
「そういうことにしておいてあげる。さ、夕飯を食べて、あの子にも何か買ってあげましょう」
「おっと、二人きりですね」
カナは相変わらずの無表情でそう言うと、小さくガッツポーズをした。
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