第9話 聖女流の尋問


「申し訳ございません。遅くなりました。っ……! これは一体!?」


 どうやってここを見つけたのか、路地裏にカナちゃんも駆け付けてくれた。


「遅いし。全部ロザ姉が片づけちゃったんだから」

「お嬢様が……? これを全部?」


 カナは倒れた男たちを見て、驚く。彼らは皆再起不能で、立ち上がることすらできない。


「まさか。お嬢様。あなたは一体何者なんですか? 普通の聖女にそんなことができるはずがありません!」

「カナちゃんも大げさねぇ。私はただの……追放された野良聖女よ」

「……お戯れを」


 カナちゃんは納得していないみたいだけど、それより私が手にしているものが気になるみたい。


「注射器よ。どこかで小瓶を買って、移し替えてもらえる?」

「はっ。直ちに」


 カナは注射器を受け取り、丁寧に布で包む。

 そして、路地を出るために、リリカの隣を通る時、小声で囁いた。


「お嬢様を危険に晒したわね」

「はっ……!?」

「後で話があるわ」

「……アタシには、話なんて何も無いし!」


 二人の様子はさておき、悪い子たちを尋問しないとね。


「さて。あの液体をお前の首に打ち込まれなかっただけ、有難いと思うことね。まあでも……もっとひどいことはいくらでもできるわ」

「くっ、お、俺たちは何も知らねぇんだ」

「そう……信じてないみたいね。あなた、将来子供を作る予定はあるかしら?」

「は? な、何を」

「今この場で、未来永劫作れなくして差し上げることもできるって、話よ」

「ひ、ひぃっ!?」


 耳元で低い声で囁きながら……そっと太ももに触れる。男は情けない悲鳴を上げた。


「お、お前それでも聖女かよ!」

「おかしいわね……聖女らしく、理性的に交渉しているのに……まあでも、脅しじゃないってことはわかってもらえたみたいね?」

「ぎゃぁあぁっ!?」


 男の太ももを強くつねると、男は別の場所とでも錯覚したのか、ふたたび大きな悲鳴を出す。


「わ、わかった。話す話す! あいつらは、最近この街に来たんだ。俺たちみたいなチンピラをとっ捕まえて、すぐに街の裏側をまとめ上げちまった」

「その連中があの注射器を?」

「ああ。あれを打てば、それだけで金がもらえるんだ。何のクスリなのかは知らねぇ! 本当だ。打たれたやつも怖がって逃げてくだけだし、ピンピンしてた。だからやめる理由なんてなかったんだよ」

「だからアンタは悪くないとでも? 寝言は寝て言いなさい!」


 こんな奴らの下らない小遣い稼ぎの為に、アリアちゃんがあんな目にあったなんて、胸糞悪いことこの上ないわ。


「あれは瘴気と何らかの薬物を混ぜて作られた、有害な代物よ。打たれた人間は数日後に苦しみながら死ぬわ。全員ね」

「し、知らなかったんだよ……許してくれ!」

「その連中は、何者なの? そいつらのところに案内しなさい!」

「あいつらは……”ダークスフィア”と名乗ってた。あいつらの根城は……っぐ」


 男は言葉の途中で、急に硬直した。


「ちょっと、どうしたの?」

「ぐああぁぁぁっ!?」


 男は悲鳴を上げた。私が飛び退くと、男の胸の辺りから巨大な黒い刃が身体を貫くように突き出てきた。


「これは……!」


 地面を黒い影が這う。こっちに近づく影から距離を取るように、私はリリカ達のすぐ前まで素早く下がった。

 黒い影は倒れた残りの二人の男の方へ伸びる。

 彼らの身体は、地面から生えた黒い杭に、下から持ち上げられるように貫かれてしまった。

 二人のおぞましい悲鳴が裏路地に反響する。


「聖力簡易結界!」


 結界を展開し、黒い影の前に遮るように光のベールを生み出す。

 すると黒い影は、それ以上近づけないというように、ずるずると暗い裏路地の奥へと引き下がっていった。

 とりあえず何とかなったみたい。


 後ろを振り返ると、リリカちゃんと人質だった子が不安げにこっちを見ている。


「大丈夫よ。ひとまず、ここを離れましょう。怖かったわよね? 家まで送るわ」


 最低限の情報は掴んだ。


 ”ダークスフィア”。その怪しい連中について、詳しく調べる必要があるわ。

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