泥塊

@yamibell

第1話

 何か黒くて重い塊が体の中に棲みついている。その中には、後悔、絶望、不安や悲しみが混じっている。

 僕は勉強に励んでいた。中学卒業後、世間一般に進学校と呼ばれる高校に入学して、難関大学合格を目指していた。今日からは学校の終業式が終わり、夏休みだ。夏らしく風もなく、雲一つなかった。高校三年生なので、僕は毎日十二時間勉強してやろうと意気込んでいた。最初の一週間は、少し頭痛や熱が出たがそれほど気にするまでもないと思ったので、特に休むことはしなかった。次の一週間はかなり酷かった。だるけが押し寄せて、やる気も全く起きなかった。なんとか二週間は十二時間勉強し続けることはできたが、その次の日からは布団から起き上がることが出来なくなった。流石にそうは言っても、少しでも勉強をしようと思って、僕は単語帳を布団の中で読もうとした。しかし、少しすると吐き気が襲ってきた。やっぱりダメだ。勉強ができない。流石におかしいと感じて調べるとうつ病と症状が酷似していることがわかった。ふと考えてみると、学校では他の高校が夏休みに入っている中、いつも補習があり、かなり心が疲弊していたかもしれないと思った。頑張って体を動かそうと思うけど、全く動けない。僕は焦った。この間にもライバルたちは四六時中勉強していることを考えると、居ても立っても居られなかった。親には大丈夫かと急かされ、甘えるなと何度も何度も言われた。僕の心は暗く汚れていった。そして、何の進捗もないまま一週間が過ぎた。ずっと寝ているだけだった。それだけが唯一楽だった。考えれば考えるほど、焦りや将来への不安が積もっていった。もう自分の行きたい大学には行けないし、何の希望もなかった。高校は私立で、兄弟もいるから大学は国公立しか経済的に駄目だった。もう終わりだ。そう考えるようになった。高卒で就職しなければならない。もう道を踏み外してしまったような気がする。僕は何となく、一流の大学に入って、大企業に就職して、幸せな家庭が築けると思っていた。クラスメートの顔がふと頭に浮かんで、頑張っているんだろうなと思うとさらに僕を苦しめた。何度も泣いた。枕がびしょびしょになるくらいには泣いた。三年間の頑張りが全て水の泡になるような気がして、辛かった。親にも申し訳なかった。今まで大切に育ててくれた親に何も返せない。もう絶望だった。苦しくて苦しくて堪らなかった。自分の部屋に足を運ぶと、いつも使っていたシャーペンが目に入った。本棚には大量の参考書や問題集があった。僕の努力の証たちだった。ともに歩んできた軌跡だった。でも、それらを見るとまた僕の心にはどろどろとした後悔や悲しみが渦巻く。泣いても泣いても変わらない。もう戻れない。あの頃の元気な姿には。羨ましい。ただ羨ましい。普通に勉強できることが、みんなが羨ましい。鏡を見た。僕の顔は死んでいた。生気のない青白い顔だった。もう二、三週間外に出ていなかった。カーテンを開けて外を見ると、空は雲一つない満点の青空で澄み切っていた。僕の心とは対照的に…生きる希望はもう無かった。何のために自分は生きているのだろうと何度も何度も考えた。こんな暗くて辛い人生ならもう楽になりたいと思った。何も考えたく無かった。死ぬことが怖いなんていう感情も無かった。悲しくも無かった。ただ楽になりたかった。ただそれだけだった…。

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