五日目

五日目、朝。


目が覚めたのは、床板の冷たさでだった。

昨夜、部屋の奥で寝たはずなのに、気づけば玄関の真ん前に横たわっていた。

寝袋も毛布もない。カメラだけが俺の胸の上に置かれている。


液晶画面はスリープ状態じゃなかった。

再生モードになっていて、見たことのない映像が流れていた。


——俺が、廃墟の外で石灯籠の小道を歩いている。

カメラは後ろからその姿を追っているが、俺は振り返らない。

映像の中の空は真昼のように明るいのに、屋根だけが異様に赤く輝いていた。


「……これ、いつ撮った?」

声が震える。

映像の中の俺が、灯籠の先にたどり着いた瞬間、画面が真っ暗になった。

次に映ったのは、この玄関に横たわる俺——今朝の姿そのまま。


嫌な汗が背中を流れる。

カメラを消しても、頭の奥にその赤い屋根が焼き付いて離れない。


外へ出ようとドアを開けたが、そこには昨日まで見えていた山道も霧もなく、ただ別の部屋に繋がっているだけだった。


戻るしかなかった。

いや、正確には……戻る以外、選べなかった。

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