四日目
外は昼から続く霧で真っ白だ。
懐中電灯を窓に向けても、光が数十センチ先で吸い込まれるように消える。
外へ出れば道が分からなくなるのは目に見えていた。
俺は寝袋を片付け、逃げる準備をしようと決めた。
カメラも三脚もまとめ、玄関に置く。
ところが、バッグのファスナーを閉めた瞬間、家全体がミシミシと軋んだ。
その音に混じって、壁の奥から低い声が響く。
——「どこへ行く」
一瞬、心臓が止まったような感覚がした。
懐中電灯で照らすと、壁の木目が歪み、赤黒い色がじわりと広がっていく。
まるで血管が伸びるように、廊下の奥まで。
玄関を開けようとドアノブを回す。
だが、外はもう玄関じゃなかった。
そこには昼に見たはずの石灯籠の並ぶ小道が、闇の中に一直線に伸びていた。
背後で扉が閉まり、カメラが勝手に録画を始める。
液晶画面には、俺がそこに立っている姿が映っている——はずなのに、顔の部分だけが真っ黒だ。
霧の向こうから、何かがこちらへ近づいてくる。
足音はない。
ただ、重い空気だけが押し寄せてくる。
俺は玄関から離れ、部屋の奥へと逃げ込んだ。
カメラの中で黒い俺は、まだ玄関に立ったままだった。
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