第12話 再起の光と決意のシャッター
文化祭での出来事、そして進路選択での決別から、数ヶ月が過ぎた。零は、再び孤独な日常へと戻っていた。彼の部屋の隅には、埃を被ったカメラが置かれたままだ。誰かの心を動かすことも、誰かの隠された願いに触れることもなくなった零は、再び「凡人」な自分に戻ってしまったことを実感していた。
彼は、彼女たちの冷たい視線や、非難の言葉を忘れることができなかった。明香里の涙、七瀬の怒り、葵の失望、そして凛桜の沈黙。それらが、零の心を深く蝕んでいた。零は、自分が彼女たちの期待を裏切り、彼女たちを傷つけたのだと、自分自身を深く責め続けた。
夏休みが終わり、新学期が始まった。零は、彼女たちと顔を合わせることを避け、学校生活を送っていた。しかし、ある日の放課後、零は、クラスメイトから一枚のメモを渡された。
「屋上に来てほしい。……四人より」
そのメモには、彼女たちの筆跡で、たった一行のメッセージが書かれていた。零は、一瞬迷った。再び彼女たちに会えば、また心を傷つけられるかもしれない。しかし、彼は、このまま彼女たちから逃げ続けることもできないと感じていた。
零は、重い足取りで屋上へと向かった。ドアを開けると、そこには、明香里、七瀬、葵、凛桜の四人が、静かに立っていた。彼女たちの表情は、以前のような怒りや失望ではなく、どこか寂しげで、決意に満ちていた。
「零くん、ごめんなさい」
最初に口を開いたのは、明香里だった。彼女は、零に近づくと、深々と頭を下げた。
「私たち、零くんのこと、全然わかってあげられなかった。零くんの夢を、勝手に決めつけて……」
「私の孤独を埋めてくれたのは、零くんだよ。だから……零くんの孤独を埋めるのは、今度は、私の番だから」
次に口を開いたのは、七瀬だった。
「佐久馬くん……私は、零くんの夢が、私たちとの関係の証だと思っていたの。でも、違った。零くんが、自分のために夢を追うこと、それが、本当の私たちの幸せだって、気づいたの」
彼女の瞳には、零を想う、温かい光が宿っていた。
そして、葵。彼女は、零の目の前に立ち、真っ直ぐに零を見つめた。
「君の現実的な選択は、決して夢を諦めたことではない。私たちは、君の情熱を、勝手に薄れたものだと決めつけていた。私たちの未熟さが、君を苦しめてしまった」
葵の言葉は、零の胸の奥に深く響いた。
最後に、凛桜が、零の前に一歩踏み出した。彼女は、何も言わず、ただ、零の手に、一枚の写真を握らせた。それは、彼女が以前、破り捨てたはずの、零が撮った彼女の「笑顔」の写真だった。
「零くん、もう一度……私を、撮って」
凛桜の震える声は、零の心に、再び希望の光を灯した。零は、彼女たちの言葉を聞き、彼女たちの瞳に宿る、自分への深い愛情を感じ取った。彼女たちは、零を巡って対立したことを反省し、零の夢を、零自身を、心から応援しようと決意してくれていたのだ。
零は、自分のしてきたことの過ちを深く反省すると同時に、彼女たちの優しさに、涙を流した。彼は、彼女たちとの絆を大切にしながら、写真家としての夢を、もう一度追いかけることを決意する。
零は、部屋に戻り、埃を被っていたカメラを手に取った。ファインダーを覗くと、そこには、彼女たちとの思い出が、走馬灯のように蘇る。零の心は、再び、熱く燃え上がっていた。
零は、大学受験という現実的な壁に、彼女たちと共に立ち向かうことを決める。彼が、再びシャッターを切る時、それは、孤独な「凡人」の物語ではなく、4人のヒロインとの絆を胸に、未来へ向かって歩み出す、新たな物語の始まりを告げる音だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます