第3話

---見えることと、選ばれること


 放課後。教室。

 僕は、数学のプリントをまとめていた。

 彼女は、僕の机の上でうずくまっていた。


 「……ねえ、最近、私のこと見える人、増えてない?」


 「転校生の二人?」


 「うん。黒影と白焔。あの二人、私のこと“教育型スタンド”とか“腐属性”とか言ってたでしょ」


 「……まあ、言ってたね」


 彼女は、顔を伏せたまま、ぽつりと呟いた。


 「なんか……やだ」


---嫉妬の正体


 「やだって、何が?」


 「君以外に、私のこと見える人がいるの、なんか……やだ」


 「……でも、見えるってことは、君の存在が強くなってるってことじゃない?」


 「違う。君にだけ見えてるのが、よかったの」


 彼女は、机の端に座り直して、膝を抱えた。


 「君が“壊れてる”から、私が見えた。

 それって、私にとって、すごく特別だったの。

 でも、他の人にも見えるなら……私、ただの“幽霊”じゃん」


 僕は、言葉に詰まった。

 彼女の声が、少しだけ震えていた。


---


⚡感情の暴走


 その瞬間、教室の空気が揺れた。

 窓が、びくりと震えた。

 彼女の霊力が、暴走していた。


 「……ごめん。私、嫉妬してる。

 君が、他の人と話してるの見てると、胸がぐちゃぐちゃになる」


 「……でも、僕は」


 「わかってる。君は、感情がない。

 でも、私の“感情の塊”が、君の中にノイズを走らせてる。

 それって、私だけの特権だったのに……」


 彼女は、空中に浮かびながら、涙を流していた。

 霊なのに、涙がこぼれていた。


---選択の瞬間


 僕は、立ち上がった。

 彼女の前に、静かに手を伸ばした。


 「君が見えるのは、僕が“壊れてる”からじゃない。

 君が、僕の中に“何かを残してくれた”からだと思う」


 彼女は、目を見開いた。


 「……何か?」


 「感情。ノイズ。揺らぎ。

 それって、君だけがくれたものだよ。

 だから、僕は──君を選ぶ」


 彼女は、しばらく黙っていた。

 そして、ぽつりと言った。


 「……君、完全に攻め顔になったね」


 「……それ、褒めてる?」


 「うん。霊的に、最高に」


---


 その日、僕は初めて「誰かを選ぶ」という感情を知った。

 彼女は、見える人が増えたかもしれない。

 でも、僕にとっては、彼女だけが“見える存在”だった。


 ──見えることより、選ばれること。

 それが、彼女の未練を少しだけ溶かした気がした。


---浄化と選択


 放課後。屋上。

 僕は、転校生の二人──黒影と白焔に呼び出されていた。


 「貴様の背後に憑いている霊──“エデュケーション・ゴースト”の波動が、限界を超えている」


 「腐属性の霊波が、校舎全体に濁りを生んでいる。

 このままでは、我らの結界が破壊される」


 僕は、無言で彼らを見ていた。

 彼女は、僕の肩の上で小さくなっていた。


 「……ねえ、私、浄化されるの?」


 「我らの秘術“月影封印陣”により、未練を断ち、霊体を浄化する。

 その後、霊界へ送還する」


 「……それって、成仏じゃなくて、強制送還じゃん」


---彼女の動揺


 彼女は、僕の肩から離れて、空中に浮かんだ。


 「私、まだ……成仏したくない。

 君の“ノイズ”が、まだ私の中に残ってるから」


 黒影は、詠唱を始めた。


 「闇の門よ、開け──腐霊を浄化せよ──!」


 白焔は、結界を展開した。


 「月の光よ、妄想を断て──!」


 彼女の体が、霊的に震え始めた。

 空気が、ざわついた。


---主人公の阻止


 僕は、前に出た。

 黒影と白焔の間に立ち、静かに言った。


 「やめてくれ。彼女は、僕の中に“感情”を残してくれた。

 それを、勝手に消さないでほしい」


 黒影:「だが、腐霊は危険だ。妄想の霊波は、現世に影響を──」


 「関係ない。彼女は、僕にとって“生きてる”存在なんだ」


 白焔:「……君は、彼女を選ぶのか?」


 僕は、頷いた。


 「うん。彼女が“腐ってる”なら、僕も“腐ってる”でいい。

 それが、僕の“感情の再起動”だから」


---霊力の共鳴


 その瞬間、彼女の体が光った。

 霊力が、僕の体に流れ込んだ。

 黒影と白焔が、後退した。


 「これは……共鳴……?」


 「彼女の未練が、君の感情と融合している……!」


 彼女は、僕の隣に浮かびながら、微笑んだ。


 「……君、完全に腐男子になったね」


 「……それ、褒めてる?」


 「うん。霊的に、最高に」


---


 その日、僕は初めて「誰かを守る」という感情を知った。

 彼女は、浄化されるはずだった。

 でも、僕が選んだことで、彼女は“残る”ことを許された。


 ──未練は、消すものじゃない。

 誰かに受け止められることで、意味になる。

 それが、僕と彼女の“霊的な関係性”だった。


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