第45話 ゴブリン・キング

 ダンジョンに到着してマスター権限の1つである『ダンジョン内転移』を発動させて最奥にある私室に転移すると、豪華なソファーにダラけきった姿勢でグダリと座り、小型冷蔵庫でキンキンに冷やした炭酸飲料を飲みながら携帯型ゲームを遊んでいるクロがいた。


「お疲れっス~無事に帰ってきてホッとしたっス!オイラ、マスターに何かあったらと思うと気が気じゃなかったっス!」


「そんなダラけた姿勢で言われても説得力がねぇって。つか分身体とやらでオレを見てたんだろ?だったらオレが無事なのは知ってたんじゃねぇのか?」


「こういったのは言葉選びってのが大事っス。お迎えの言葉が『大丈夫だった?ま、知ってたけどね!』って言われるよりも『無事そうな貴方の顔を直接見れて安心したわ』って言われる方が嬉しんじゃないんスか?」


「そういうもんか?ってか、オレが言いたいのは言葉の方じゃなくて、出迎えたときの姿勢の方を言っているんだが……」


「まあ細かいことは良いじゃないっスか。それより今回もまた随分と儲けたじゃないっスか。オイラに還元してもいいんスよ?」


「今お前の周りにあるものだけで十分だろ。ゲームにテレビに冷蔵庫。世の思春期真っ只中の学生さんが欲しいものが全て手に入ってんだ。これ以上の贅沢は身を亡ぼすぞ」


「またまた~そんなこと言っちゃって。欲望が身を亡ぼすってのは、自らの欲望をコントロールする術を持たない愚か者の言葉。オイラのような優秀な精霊には無縁な言葉っスよ」


「よく言うぜ、物欲の塊が皮を被ったみたいな性格をしているクセしてよ。そんなことよりもさ、ついに所持金が4桁万円を突破したからゴブ助を合成しようと思ってだな」


「ほうほう、ついにゴブ助がAランクモンスターの『ゴブリン・キング』になっちゃう日が来ちゃったっスか。マスターがマスターになって1年ちょい、オイラも少しばかり感慨深いっスね~」


 果たして本当に感慨深いと思っているのか。しゃべりながらスナック菓子をバリバリと食べてるクロを見ているとそう問うてみたくもなるが、どうせいつものように煙に巻かれるだけだろうからスルーすることにした。


 隣のボス部屋で訓練しているゴブ助と、同じくゴブリン・アサルトであるゴブ衛門を呼ぶ。訓練の途中だったのか疲労した様子ではあったがキビキビとした態度で入室してくる。


「これからお前らの合成に入る。多分意識はゴブ助になるだろうから、ゴブ衛門は多少の不便を我慢してくれ」


「私ニ気ヲ遣ウ必要ハ、アリマセン!マスターノ御為にナルノデシタラコノ命、惜シクハアリマセヌ」


「そう言ってくれると気が軽くなるよ。ほんじゃ合成っと……」


 湿っぽいのは好きじゃないからサクッと合成のアイコンをタッチ。いつものように黒い渦が出現して二体を包み込み、アッという間にアサルト・ゴブリンよりもデカいゴブリンが出現した。


「おぉ……思っていたよりもデカいな!」


 体長は2メートルを優に超えており、膨れ上がったムキムキの筋肉は周囲に圧迫感を与えるほどだ。顔の造形自体はゴブリンとあまり大きな違いは無いのだが、鋭い犬歯が口の端から覗き見えていてちょっと怖い。


「これほどの力を与えて下さるとは……マスターに今後とも絶対なる忠誠を尽くしたい所存であります」


 ゴブ助が軽く掌を開いたり握ったりして、己のパワーの上昇を確認している。見た感じ忠誠心も以前のままだし、知識や経験も以前のまま。想定通り、やはり直接ゴブリン・キングをポイントで召喚するよりも具合がよさそうではあるな。


 というのもA級のモンスターを『合成』するために必要な金額は跳ね上がり、今回のゴブリン・アサルトからゴブリン・キングに『合成』するための費用は500万円もかかった。


 つまりゴブリン・キングを『合成』するために必要なものはゴブリン・アサルト2体分である60万ポイントと500万円ということ。


 ミルワームの1匹の値段は約5円。つまり500万円という金額はポイント換算すると100万ポイントであり、要するにゴブリン・キングの『合成』に必要なポイントは合計で160万ポイントであるという事だ。


 だがコアの機能でゴブリン・キングを召喚すれば120万ポイントで済み、40万ポイントお安く召喚できる。


 正直ここまで差が出るのならポイントで直接召喚した方が効率が良いのだが、やはり『合成』したモンスターの方『召喚』した個体よりも肉体面や知能的な基礎スペックが遥かに高く、訓練の結果が出やすいとか、レベルアップがしやすいという実験結果も出ている。


 そうした見た目以上の強さを有するモンスターであれば、例えば冒険者などとの戦いにおいては、そのギャップは冒険者たちを大いに混乱させ戦況に大きな影響を及ぼすのではないかと期待している。


 もちろんそんな単純な戦闘力だけでなく、生まれた瞬間から強い力を持つ上位種であれば現状の強さに傲り強くなることに積極的ではないだろうが、生まれがゴブリンであれば弱者であった頃の記憶を引き継ぐことで、強くなることに貪欲になるのではないかという精神的な面にも期待している。


 現にゴブ助は上位種になってからも訓練も真剣に取り組み、戦いにおいては敵が弱者であっても決して手を抜かないという几帳面さをよく目にしている。第二第三のゴブ助の誕生に今後も期待しているのだ。

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