第44話 ゴブリン・アサシン
とりあえずの目的は達成したので町を出てダンジョンに戻ることにした。
オレが卸した砂糖やら金貨の話をどこかしらから聞きつけて、町から離れた場所で襲撃に来るようなならず者の存在を警戒していたがそんな気配は全くない。
クリボッタの目の前で隠し部屋にいた人の存在を看破したことでオレの能力の高さを警戒してくれたのか、はたまたオレのような小物は狙う間でもないと判断してのことかは分からないが内心ホッとした。
今後ともアングラッド商会にはお世話になるつもりだからな。こんなところで躓いて、せっかく築いた繋がりが消えてしまうような悲しい結果になどなりたくない。
ある程度まで町から離れると日が暮れて暗くなってきたので、近くにあった大きな木の下で夜営をすることにした。
背負子に擬態しているトラップ・スライムを置いて燃えやすい枯れ枝を拾い集める。問題なく一夜を明かせそうなほどの量を持って夜営地まで戻ると先客……というより、町を出た直後から気配を消し隠れ潜んで護衛をしてくれていた身内が姿を出していた。
「命ジテ下サレバ、我ラガ、集メマシタノニ……」
「まあ、こんくらいなら自分でするさ。それより今回もご苦労だったな。飯の準備をするからちょっと待っててくれ」
「了解、デス」
「マスターノ、飯、トッテモ旨イカラ、好キ、デス!」
「オ、俺モ、ソウ思ウ!」
身内と言う名の、ゴブリン・アサシンがご飯と言う言葉を聞くと歓喜の声を上げている。まあオレの作る飯が上手いのはオレの努力ではなく、≪等価交換≫のスキルのおかげなんだけどな。
ゴブリン・アサシンはゴブリン・ソルジャーの亜種であり、討伐難度こそCランクとそこそこ高いがコイツの強さは直接的な戦闘能力ではなく、高い索敵能力と隠密能力を生かして敵の意表を突くという戦術にある。
そんなゴブリン・アサシンがオレの前に姿を出したということは、この辺りの調査を終わらせ危険はないと判断してのことだ。その労働に報いてこそ、できる上司と言うものではなかろうか。
鍋を取り出してちゃっちゃと水を張り、レトルトパウチとパックご飯を投げ込んで温める。それを容器の上で開封すれば、アッという間にアツアツホカホカ牛丼の完成だ。
ゴブリン・アサシンたちが牛丼をスプーンを使って器用に食べる。オレが町にいる間は事前に渡していた少し味気ないカロリーバーで空腹を見たいしていただろうから、そのギャップも相まっていつも以上に美味そうにしている。
コイツらは少し前までただのゴブリンであり召喚された直後はがっつくように汚く食べていたんだが、ゴブ助が指導することで結構綺麗に食べるようになっていた。
ゴブ助は最初に召喚したゴブリンだけあって、かなり理知的な感じに成長をしている。他のゴブリンたちの指導者的な立場であり、色々と金と時間をかけただけの価値がある頼もしい存在にまで成長していた。
トラップ・スライムにも同じように牛丼の入った容器を渡すと、擬態を解いていつもの粘体生物の姿に戻り、容器全体を覆って少しづつ消化し始めた。
スライムに味覚があるのか甚だ疑問ではあるのだが、一応は喜んでいるような気配を感じるので同じものを食べさせるようにしている。
そうしてほどほどに食休憩を済ませると周囲を高いところから警戒するためにゴブリン・アサシンたちは再び木の上へと登って姿を消した。
さて、腹も膨れたからオレも寝ることにするか。取り出した毛布に包まってしばらくすると、自分で思っていた以上に疲労していたためかすぐに睡魔の波がやってきた……
目を覚ますと視界の端にグレイウルフの死体が転がっていた。
首元から流れ出た血が身体全体を濡らしており、恐らくはゴブリンに見つかって即座に暗殺されたのだろう。
グッスリ眠っているオレに気を遣ったのだろうが、起きたら視界の端にあんなものがあってビックリしたので、少しぐらい声をかけてもらったほうがいいんだけどな。
この辺りは町が近いこともあってあまりモンスターを退治してはいない。ダンジョンの近くよりも治安が悪く、たまにモンスターや野生の獣と遭遇する。前の時も熊と遭遇したがゴブリン・アサシンに即座に始末されていた。
あのときの熊の死体は少しだけ食べてみたという興味がわいたが、あまりにも獣臭くて断念したんだったな。ゴブリンたちも匂いを嗅ぐと眉間にしわを寄せて食指が動かなかったらしく、ダンジョンに持って帰ると全てがミルワームの餌となった。
クロいわく『ゴブリンは人間以上になんでも食べる究極の雑食性』だったんだけどな。なんのかんのとウチのゴブリンにも≪等価交換≫で手に入れた質の良い食べ物を与えていたことで舌と胃袋が肥えてしまったのだろう。
果たして良いことなか悪い事なのか……まあ、旨いものをもっと食いたいという欲望でやる気になってくれたのだとしたら、良い事なのだと言えるだろうな。この調子でそこそこの待遇を与えることで、ゴブリンから忠誠を尽くしてもらうことにしよう。
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