第38話 嘘をつく才能

「————ってことで、しっかりと交渉をまとめてきたって寸法よ!!」


「ほへぇ~~。ヘタレマスターにしては随分と頑張ったじゃないっスか」


「ああ、オレも自分の口からあんなにスラスラとでまかせが出るなんて驚いたぜ。将来は案外営業職とかが向いていたのかもしれないな」


「何にしても上手くいってホッとしたっス。懐もあったまったことだし、これで心置きなくお菓子を強請ることが出来そうっスね!」


「いやいやいや、交渉が上手くいったからってお前の為に無駄遣いする気はサラサラねぇぞ?」


「そんなぁ~オイラ、マスターがいない留守を、寂しくて挫けそうになる心を奮い立たせながら必死にここを守ってたんスよ?それなりのご褒美があったっていいじゃないっスかぁ!」


「何が『挫けそうになる心を~』だ。俺が戻ったとき横になってゲラゲラ笑いながら漫画を読んでいたクセによ!それに報酬は町に行く前の日に渡しただろ?『マスターに万が一のことがあったら報酬がもらえないっス!なので前払いで頼むっス!』って言ってたのはお前じゃねぇか」


「うおぉぉん!ゴブ助ぇ~マスターを一緒に説得してくれっス~!!お前はオイラの味方だよな~~!」


 無論、公正な立場にあるゴブ助にはオレの言葉に筋が通っていると判断を下してクロのことを慰めはしたがオレに意見をすることはなかった。


 説得は不可能の見たのか、クロはぶつくさいいながら再び横になって漫画を読み始めた。ようやく静かになったことで今回の戦果を確認する。


 合計で金貨12枚、等価交換で換算すると120万円もの大金を手に入れたわけだが強力な銃火器を手に入れるにはかなり心もとない金額だ。


 オマケに銃火器を購入できたとしても弾薬も当然ながらお高いわけで。長期間運用するにはプラスアルファで更にお金が必要だ。


 そうなるとやはりお買い物は次回以降に持ち越して、今回はミルワームの飼育施設の拡充に予算を割いた方が良いだろう。


 ダンジョン最奥の部屋はコアの設置場所兼オレの私室として利用しており、その1つ手前の部屋をゴブ助たち有力モンスターたちの訓練所兼ボス部屋と使用している。


 そのボス部屋はオレの私室とは別に繋がっている部屋がもう1つあり、そこでミルワームの飼育をかなり大々的に行っている。


 バインツの町の市場でミルワームの餌用としてタダ同然の値段で買ってきた腐りかけの肉や野菜などをその部屋で働いてるゴブリンたちに渡し、生育状況について聞いてみる。


「もうちょいココのミルワームを増やそうと思っているんだが人手がいるか?」


「ソウシテモラエルト、アリガタイデス」


「分かった、少しまってろ」


 虚空に手をかざすとコアの画面が映し出される。


 最初の頃はコアが近くにないと開かなかったこの画面も、慣れたためか近くにコアがなくともダンジョンの中にいればいつでも開けるようになっていた。


 そこでゴブリン数体を召喚して、更にダンジョンの拡張ボタンをポチっと押す。


 オレの私室よりも3倍は広い飼育部屋が更に広まり、そこに≪等価交換≫で購入し、生きたミルワームが入ったカップと飼育用の大きな衣装ケースが出現。


 召喚されたばかりのゴブリンに指導をするグループと、ミルワームをケースに移し餌を与えるグループにすかさず分かれて行動を開始する。


 クロと違って文句ひとつ言わずキビキビ働く姿は好感が持てるが、逆に何も言われないと申し訳なさが出てくるというのも人情と言うもの。


「お前ら普段から頑張ってくれているからな。休憩がてら時間があるときにでも食ってくれ」


 疲れた体は甘い食べ物を欲する。ということで、お菓子を置いて飼育部屋からそそくさと退室した。上司?がすぐ近くにいては、ゆっくり休憩もできないだろうからな。


 そういえば、このまま大口の安定収入が見込めるならわざわざミルワームの繁殖をしなくても、直接現金でミルワームを購入すればいい気もしないでもないが……


 まあ、質素倹約は世の常だ。後で『ああ、あの時もう少しポイントを節約していれば……』と思うようなことが無いよう、今の内から出来るだけのことはしておくか。


 部屋から出ると何か言いたげな視線でジッとオレを見つめる1つの怪しい黒い影。まあ、実際には黒く見えているのは影が原因ではなくて、単にコイツの身体の色が黒っぽいから影のように見えている訳であって……


「ずるいっス!どうしてゴブリン共にはお菓子をあげるのにオイラにはくれないんスかっ!」


「アイツらは普段から文句ひとつ言わずミルワームの飼育を頑張ってるだろ?その対価を払うのは当然じゃないか」


「だったらゴブ助たちにも与えるのも筋ってもんじゃないっスか?アイツらもダンジョンのために頑張っているっス。その頑張りに報いるのもマスターの仕事じゃねえっスか?」


「それもそうだが……でもどうしてお前がそれを言うんだ?……まぁいいけどさ」


 ボス部屋で訓練しているゴブ助たちを呼び集め、『普段の頑張りに報いるため』と言って多量のお菓子やジュースを与えることにした。


 喜ぶゴブ助たち。こんなに喜んでくれるなら普段から与えていればモチベーションも上がって訓練にもより身が入るかもしれないな。


 そんなことを考えていると――――


「うひょ~~っ!分かっているとは思うがオイラがマスターと交渉したからお前らはこのお菓子を食うことが出来るんス。つまりお前らはオイラにその対価を支払う義務があるってことっスよ!!」


 と、いの一番にお菓子の山に手を出したのはクロだった。意地汚いと言うべきか、ずる賢いと言うべきか……仮にダンジョンに何かあったとしても、コイツだけは不思議パワーで生き残りそうな気がしてならないな……

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