第30話 ワケ有りオーガ
『今回のオーガはチョット特殊というかなんというか……とりあえず訳アリっスね。詳しくは実際にご自身の目で確認するっス~』
というクロのやんわりとした言い方に違和感を覚えつつ、我がダンジョンの最高戦力であるゴブリン・アサルトを筆頭に何匹か引き連れながら仄暗い森の中を慎重に進む。
今日もクロの案内は正確であり、言われた通りに進むと確かにオーガの姿を発見する。ただし思い描いていたような周囲を威圧するような獰猛な様子ではなく、疲れ果てた様子で腰を下ろし、樹の幹にグダリと寄りかかっている。
「訳アリってのはこう言うことか…」
念のために生い茂る草木の影に隠れて様子をうかがっていたのだが、相手が弱っていたので緊張の糸が途切れてしまい、思わず声が漏れ出てしまった。
如何に見ても激しい戦闘を繰り広げた後のようであり、全身には切り傷や打撃の跡が痛々しく残っており、そして魔法によって焼かれたのか顔の半分がケロイド状となっていて醜く焼けただれている。
「ドウ、シマスカ?」
ゴブリン・アサルトに至ったゴブ助が問いかけて来る。
『合成』を繰り返していると知性も向上したのかいつの間にか言葉をしゃべれるようにもなり、円滑なコミュニケーションが取れるようになったのは喜ばしいことではある。
しかし時折クロのように報酬を具体的に強請って来るのは戴けないけどな。まあ、その分しっかりと働いてくれているので良い事と悪い事の半分半分と言ったところだ。
「このオーガをここまで追い詰めた存在が近くにいるのかが気になるんだが…なあ、どうなんだ?」
と、オレの肩に止まっている小さなクロの分身体に問うてみると…
『いないっス!そんなのがいたらちゃんと事前に伝えているっスよ!少しはオイラを信用するっス!』
頭の中にクロからの『念話』が届いた。
「ってことだな。そんじゃ、ちゃちゃっと無力化して連れ帰って、ダンジョンの肥やしにしてやるか」
隠れていた草の影から身を乗り出し、ゴブ助たちという護衛を引き連れてオーガの前に姿をさらす。相手が弱っていると言ってもオレなら負ける可能性も十分にあるからな。念には念を入れておくのがポリシーだ。
息も絶え絶え、応戦する体力すらないのかわずかにコチラに視線を向けるも、構える様子すら見られない。
「ボ、冒険者、カ……俺ノ首ガ狙イカ?」
「まあ、お前の首が目的ってことに違いはないが冒険者ではないな。どちらかと言えば冒険者と敵対する立場にあるし」
「ク……ククッ……ソウカ、ダトスレバ朗報ダ。俺ノ故郷ヲ壊滅サセタ冒険者共ニコノ首ヲヤルノハ業腹ダガ、敵対スル連中ナラバ、イクラカ安心シテ死ヌコトガ出来ル」
オーガは力なく笑うと抵抗する意思は皆無らしく、大人しく頭をオレに差し出してきた。
う~む。これまでいくつも命を奪ってきたが、こんな潔い反応をされたのは初めてだ。致命傷を負っているヤツでも大体が醜く命乞いをするか少しでも逃げようと必死にあがいていたんだけどな。命よりも名を惜しむとか、そんな感じなのかな?
オレは天邪鬼な性格だからな、醜く生にしがみつこうとするヤツは遠慮なく肥やしにできるが、スッパリと諦めたような反応をされてしまうとどうも興が乗らなくなってしまう。何というか、コイツを殺すことに少しだけ抵抗を覚えてしまった。
「同じ冒険者と敵対する立場にあるんだからさ、最期にお前をそんな風にやった連中の情報を教えてくれないか?」
「クハハ……コレカラ殺ソウトスル者カラ情報ヲ得ルカ。俺ガ嘘ヲ言ウトハ思ワンノカ?」
「思わないね。今から死ぬお前がオレをダマすメリットがないからな。まあ、自分を殺したヤツの足を少しでも引っ張ろうとか、そういった思惑もないとは言い切れないがお前からはそんな感じがしないからな。それに、運が良ければお前をそんな風にした連中とオレが戦うことになるかもしれない。オレが勝てば間接的に復讐が叶うってもんだろ?」
「フフフッ……イイダロウ。地獄ノ果テデ、貴様ガアノナラズ者共に勝利スル様子ヲ眺メルコトニシヨウ」
そこから先は聞くも涙語るも涙の物語……と、言いたいが、この厳しい世界ではどこにでもあるような話だった。
要約すると森のはずれ生活していたオーガ一族の村があったが、突如襲来した冒険者によって壊滅させられてしまった。
別にオーガたちが人間の街を襲撃したなんてこともなく、だからこそ冒険者が突然襲ってくるだなんて予想だにしていなかったのでひたすらに混乱し、その混乱に乗じて冒険者たちは好き勝手に暴れ狂ったと思われる、らしい。
目の前のコイツは襲撃のタイミングはちょうど村から離れており、騒ぎを聞きつけて戻ってきたところ村の惨状を見て呆然自失となる。そこに冒険者の攻撃を受けてしまい気を失った。そうして体の痛みにこらえながらなんとか冒険者の足取りを追って……とのことだった。
「気を悪くしないで欲しいが、今のお前が件の冒険者を見つけたとしてもどうすることもできないだろ」
「ダロウナ……ダガ、俺ニハ冒険者共ニ復讐スルトイウ目的以外、何モ残サレテイナイノダ。住ミナレタ故郷モ、家モ家族モ友人モ全テ、失ッテシマッタノダカラナ……」
言い終えるとオーガはグッタリと倒れ伏した。わずかに胸が上下している様子を見るに死んではいないようだが、このまま放置していれば遅かれ早かれ間違いなく死んでしまうだろうがな。
それにしても討伐難度Bのオーガの村を隙を突いたとはいえ蹂躙できる冒険者がいるんだな。少しづつ戦力が揃い始めていい気になっていたが、やはりいい気にならず、これからも己を律することが必要そうだ。
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