転生2年目
第29話 あれから1年……
オレがマスターになって1年ぐらいの月日が経過した。
その間にシコシコとダンジョンの拡張をはじめ戦力の拡大にも尽力し、RPGのマップに出現しても『ダンジョン』と呼べるぐらいまでには成長していた。もっとも物語の主人公が最初に訪れるような小さくてギミックもショボイやつだけどな。
それでもここまで来るのにそれなりに努力したし、自分の命が直接かかわっている分受験勉強よりも真剣に取り組んだことで、他者に対しても誇ることができる程度には頑張ったのではなかろうか。
ただしその反面、良くなかったことも当然ながらある。
今までは洞穴っぽい見た目だったダンジョンの入り口も大きく立派なモノへと成長してしまったことで、遠目からでも『何だろうアレ?』と思われる程度には変貌してしまったということだ。
つまりこれまでの入口の近くに背丈の高い雑草の種を蒔いたりとバレにくくするための工作が全てムダになってしまったということ。
今後は今まで以上に隠ぺいがうまくいかなくなってしまうんじゃないかと恐々としているし、その兆しが少しづつ表面化して言っているかもしれないという悲しい現状に直面しつつある。
「最近ここらをうろつく冒険者がちょっとだけ多くなった気がするよな」
「っスねぇ~。もしかしたら近くを通る人を肥やしにし過ぎたんじゃないっスか?」
「やっぱりそうかな。でもヤらなきゃコッチがヤられるし、人間にバレるかもしれない危険を犯すぐらいならコッチから仕掛けて奇襲をかける方が勝率が高いだろうし……嘆いていても仕方なし、今からできることをしておくか」
「そうそう、ヤっちゃったことを後悔しても意味がないっス。これからのコトを考える方が建設的っス!ってことで、ひと狩り行くっスよ!」
「なんだよ、また冒険者が近くに来たのか?」
「いやいや、今回はモンスターっス。チャチャッと肥やしにしてポイントに変換してやるっス」
ある時、雑談をしているとクロがふと思い出したかのように教えてくれた。
ダンジョンの精霊には戦う力は無いのだが、その反面戦いをサポートする強力なスキルを有しているらしい。
それは敵の弱点を看破する能力であったり、敵の能力の一部を封印する能力であったり、味方の能力を向上させる能力であったりとかだ。クロには小さな分身を作り出し、その分身とどれだけ距離が離れていても念話で連絡を取ることが出来る能力を有しているらしい。
その分身をダンジョン周辺に散会することで冒険者の情報などをいち早く入手し、オレに伝えてくれていたのだ。
能力だけを見ればRPGの中ボスでも張れそうな強力なものではある。主人公が中ボスを倒しても、倒される直前に逃がした小さな分身体から復活するって感じのパターンだろう。
しかし残念ながらクロの分身にはそこまでの力はない。何よりもコアを破壊されてしまえばオレもクロもその瞬間にお陀仏だからな。捲土重来はどう考えても不可能だ。
「そんで今回のモンスターは何だ?前にみたいにコボルトとかウルフ系の奴か?だったら前に作った超強力な匂い袋の残りがまだあるぞ?中身の腐敗がさらに進んでて、近くに置いとくだけで目が痛くなるほどの強力なバイオ兵器にまで進化しているから早めに消費したいいだが?」
「アレはちょっとヤバすぎっスよね。でも残念、今回はちょっと強めのオーガっス。冒険者の討伐難度でいえばB級。今のマスターからすれば大したことない相手っスよ」
「B級は大したことあるモンスターだろ。まあ相手が国とかギルドっていう大きな組織所属している人間じゃねぇなら、例え逃げられても大きな問題にならないからな。ちょっとだけ気楽に戦えるな」
ヒト型のモンスターであれば、いつか来るであろう人間を相手にした戦術シュミレーションを試してみることが出来るという最大のメリットがある。
これまでも戦国大名に倣った『釣り野伏せ』や『啄木鳥の戦法』などを応用した戦術などを色々と試してみたが、思いのほかうまくいった。
意外なことに冒険者という戦いのエキスパートであっても簡単に策略に嵌めることができていた。
ゴブリンというモンスターをそこまで警戒しないものなのか?そんな疑問があったが、これは冒険者として経験を積んできたからこそ嵌めることができたのではないかと考えを改めるようになった。
ゴブリンは基本的には頭が弱くて敵を罠に嵌めるなんて頭脳プレーをすることはしない。
これまでの冒険者としての経験則が彼らの判断を誤らせ、そうして陽動に簡単に引っかかりこちらの思うように動いてくれたのだ。むしろ冒険者よりもただの町人や村人といった一般人の方が警戒心が高くて罠に嵌めずらかったほどだ。
まあ、そういった人であれば普通に戦力で押しつぶすことも簡単だったけどな。今のところは人間に俺のダンジョンがバレた様子は見られない。今後も油断することなく慎重にダンジョン運営に尽力していこう。
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